第16話 たべられる草《くさ》



 ゆめ世界せかいとは、ふしぎなところです。


 夢を見ているときだけいきなりあらわれて、目をさますと、もうえてしまう世界なんだそうです。


 だけど、なかんでいる人たちは、ちゃんと生きています。


 すみれも、夢の世界に入ったからには、そこでケガもすれば、んでしまうこともあるのです。


 この世界で死なないのは、逡一だけだとランペじいはいいました。


 死にそうになったら、逡一は目をさまします。


 そして、


「ああ、こわい夢を見た」と、おとうさんにもどった逡一が思うだけなのです。


 でもすみれのばあいは、ちがいます。

 ここで死んでしまうと、もう、もとの世界にはもどれません。


 ほんとうの世界では、つくえかおをくっつけたまま、ずっとねむりつづけることになってしまうのです。


 ランペじいは、すみれにいいました。

 夢子のあいてを、してあげなさい、と。


 逡一はほうっておいてもだいじょうぶだけど、夢子はまもってやらないといけない。


 ムーマの目的もくてきは、逡一のたいせつな思い出をこわすことにあるのだから。


 その思い出とは、夢子との思い出。

 すみれは、そう言われました。


 そうこうしているうちに、朝ごはんになりました。

 朝ごはんは、かまどでたいたホカホカのごはんに、にわでかっているにわとりのんだ、おいしそうななまたまご。


 それから、シワシワのウメボシに、ダイコンのみそしるでした。


 いつもは、パンとかコーンフレークの朝ごはんをたべているすみれには、ちょっとおおいくらいです。


 でも、木をもやしてオカマでたいたごはん。

 電子でんしジャーでつくったものよりも、ずっとおいしそうです。


 オカマのはしっこにくっついた、茶色ちゃいろのおコゲのかおりも、すみれには、はなをぴくぴくうごかすほどめずらしく思えました。


「さあ。ぼくは、つよしとさかなとりにいくよ」


 逡一は、たけのさきに丸いあみのついた、魚とりのどうぐをかかえて、どたどたと走っていきます。


 土間どまで、ブリキのバケツをがらがらとならし、げんきに玄関げんかんび出していきました。


 トッピたちも、逡一についていきます。

 やっぱり男の子のあそびのほうが、おもしろいのでしょうね。


「さあて。すみれさんは、どうするの。倉口くらくちさんとこに、かえる?」


 雪江ゆきえさんが、ちゃぶだいの上をふきながら、たずねました。


 かえると言われても……


 すみれは、こまってしまいました。


 倉口さんはトッピたちのつくりあげた、いいかげんな人物じんぶつです。

 はたして、ちゃんと家があるかどうかさえ、あやしいものです。


「倉口のおじいさんとは、お不動ふどうさまのお祭りで、まちあわせしています。だからひるまは、夢子ちゃんとあそびます」


「そう。それじゃ、おばちゃんと山菜さんさいをとりにいきましょうか」


山菜さんさい?」


自然しぜん野山のやまえている、食べられる草のことよ。都会とかいじゃ、そんなものないでしょう?」


 すみれのしっている食べられる草とは、野菜やさいだけです。

 だから、はたけや田んぼのほかに野菜やさいがあるなんて、とてもしんじられませんでした。


 だって畑に野菜がうえられているのでさえ、まだ、なんどかしか見たことがないのです。


 ほとんどは、八百屋やおやさんとかスーパーマーケットでしか知りません。


「え、ええ。れてってくださるなら……」


 すみれは、よくわからないけれど、ついていくことにしました。


「おねえちゃん、わたし、いっぱいおしえてあげるからね」


 夢子がうれしそうに言いました。


 そして台所だいどころにいくと、たけでできた、大きなザルをってきました。


 夢子は、すっかりその気になっています。


 雪江さんは、すみれのふくをみて「それじゃ、むりよね」と言いました。


 そしてたんすをけると、ちいさなズボンのようなものを取り出しました。


「これ、むかし私がはいていたモンペだけど、ちょうどいいでしょう?」


 モンペとは、ごわごわしたぬのでできた、青色のぶかぶかズボンみたいなものです。


 こしのところと足のさきには、ゴムひもが入っています。

 そこで、キュッとしまるようになっているのです。


 そしてくらい青色のきじに、うすい水色や白のもようが入っていました。


 すみれはスカートをぬいで、おそるおそる、モンペをはいてみました。

 するとそれは、あつらえたように、ぴったりじゃありませんか。


 すみれは、すっかり、うれしくなってしまいました。


「さ、行こうよ」


 そして、生まれてはじめての山菜とりに、でかけることになったのです。


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