第15話 プップのやくめ。



 ひとまず、さわぎはおさまりました。

 でも、へやの中は、もうむちゃくちゃです。


 雪江ゆきえさんは気をうしなっています。

 つよしたちは、ぼーっとしたかおでたっています。


 これではもう、ゆめ世界せかいはぼろぼろです。


「さて。あとしまつをしなきゃ」


 トッピが、すました顔で言いました。


 そして、こしのバッグからミラクル・クッキーをとりだすと、プップに二枚たべさせました。


「ぶぶいっ!」


 クッキーをたべたプップのようすが、どうもへんです。

 目が、あかひかっています。


 とつぜんプップは、大きく口をひらきました。


 ――ゴウッ!


 ものすごいかぜが、プップの口からいてきました。


 そしてこわれた障子しょうじや、キズのついたたたみ、逡一しゅんいちがやぶったふすまなどを、かたっぱしからきとばし、つぎつぎに口の中にすいこんでしまいました。


 桃太郎ももたろうたちも、いっしょにすいこまれてしまいます。


 そしてかぜがおさまると、なにもなかったように、もとどおりにもどってしまいました。


「すごい……」


 すみれがおどろくと、トッピがいいました。


「これが、プップの『悪夢食あくむぐい』なのさ。わるい夢をたべて、い夢にえるのが、プップのやくめなんだもんね」


 そういって、笑いました。


「あれれ? ここは、どこだ」


 つよしが、きょとんとした顔で、すみれたちを見ています。

 そして逡一を見つけると、うれしそうにいいました。


「よう、逡一。なんだい、そんなこわい顔して。あしたは、川でさかなをとってあそぼうぜ。そして夕方ゆうがたからは、お不動様ふどうさまのおまつりだ」


 逡一は、こまった顔になっています。


 そこでトッピが、すみれにいいました。


「つよしは、もとの良い子にもどったんだよ。そして、これまでのことは、すっかりわすれてしまっているから、そのつもりでね」


 つよしはおにがとりついていたせいで、わるい子になっていたのです。

 それが、トッピとプップのおかげで、もとにもどったのでした。


 でも、それではどうして、逡一だけは、つよしにはらをたてたことをおぼえているのでしょう。


 ふしぎに思って、すみれは逡一に聞こえないくらいのちいさい声で、そっとトッピに聞いてみました。


「ねえ、トッピ。どうして逡一さんだけ、プップに『悪夢食あくむぐい』されないの?」


 トッピは、


『なんだ、そんなこともわからないのか』という顔をしています。


「ここは、おとうさんの夢の中だぜ? 夢を見ているやつがおぼえてなくて、どうするんだよ。

 だから、このつぎに夢を見るときには、鬼は出ない。けど今回こんかいだけは、このとおりの夢なのさ。いくらなんでも、いま見ている夢を、かええることはできないよ」


 なんだか、わかったような、わからないような返事へんじです。


 そこですみれは、


「それじゃ逡一さんは、ぜんぶおぼえているの?」と、聞きなおしました。


「おぼえているのは、おとうさんのほうだよ。逡一のきもちは、おとうさんのきもちなんだぜ。

 二人が、あるところでつながっていることは、たしかなんだけど。うーん、どういえば、ちゃんとわかってもらえるかなあ……」


 トッピは、しばらくかんがえこみました。


「そうだなあ。ビデオカメラで、じぶんのでてくる映画えいがをとってるって思ってよ。とちゅうで映画えいががおかしくなっちゃえば、もう一度いちど、とりなおすだろ?

 映画のなかのじぶんには、けされてしまったむかしのことはわからないけど、見ているじぶんには、ちゃんとわかる。そういうわけさ」


 トッピは、


『どうだ、わかっただろう』という顔をしています。


 しかし、すみれは、ますますわからなってしまいました。


 でも、夢のせんもんのトッピがいうのだから、きっとそうなんでしょう。


 すみれは「ふーん」といったっきり、もうそのことについては聞きませんでした。


 それより夢の中で、どうしたらられるのかというほうが、すみれにとってはだいじです。


 すみれは、ばかにされるのをかくごで、トッピに聞きました。


 するとトッピは、思っていたとおり悪口わるくちをいいましたが、こたえだけは、おしえてくれました。


 それは、すごくかんたんなことでした。


 目をつぶって、


あさになあれ!」、と言うだけでよかったのです。


 夢の中では、それだけで、時間じかんがすすむのだそうです。


 すみれは、すぐにふとんにはいりました。

 そして、みんなが見ているのもかまわずに、大きな声で「あさになあれ!」と言いました。


 すみれが目をひらくと、もうそこは、朝の光でいっぱいでした。


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