第17話 森《もり》の山菜《さんさい》



 雪江ゆきえさんのいえは、県道けんどうのそばにたっています。


 そこで山菜さんさいれる山まで、おとなりのおじさんに、オート三輪さんりんというのりものでおくってもらうことになりました。


 おじさんは、山菜のとれる山のそばで、みかんの木をさいばいしているそうです。


 オート三輪は、自動車じどうしゃとオートバイがまざったような、へんなのりものです。


 タイヤは三つしかありません。

 ちゃんとすわることのできるイスがあるのに、ハンドルはオートバイのものにそっくりでした。


 そしてすみれと夢子ゆめこは、うしろにある荷台にだいにのることになりました。


 パッパッパッと白いけむりを出しながら、オート三輪は、どんどん山のほうにはしっていきます。


 かりとった麦畑むぎばたけをすぎました。

 小学校のよこをぬけ、大きなぶどうえんの中をとおりました。


 いくつかの家があつまったところをすぎると、やがて道はのぼりざかになりました。


「もうすぐよ、すみれさん」


 雪江さんが、うんてんせきのうしろのまどからいいました。

 あたまにかぶったむぎわらぼうしが、とてもにあっています。


 そのわらがおは、いなかで見たおばあちゃんと、ちっともかわりありません。


 すみれは、おもわず『おばあちゃん』と、つぶやいてしまうところでした。


 りょうがわに草の生えている道を、オート三輪はのぼっていきます。


 道はくねくねとがっています。

 すぐそばまで、みどりっぱをしげらせた、みかんの木がうえられています。


 いまは春だから、あの黄色きいろいみかんは、なっていません。


 夢子におしえてもらわなかったら、すみれはそれが、みかんの木とさえわかりませんでした。


 みかん山をすぎると、こんもりとしげった森があらわれました。


「さあ、ついた」


 雪江さんは、運転うんてんしているおじさんにあいずを送りました。


 オート三輪は、その森のふもとで止まりました。


「そいじゃあ、ひるすぎにむかえにくるから」


 おじさんはそういうと、自分じぶんのみかん山へと、もどっていきました。


「さあ、あつめましょう」


 雪江さんは、大きくのびをしてあるき出しました。


 森の中に入ると、ほそい道がありました。

 人がやっと歩けるくらいの、小さな道です。


 まわりには、落ちおちばやら、ギザギザのっぱがいっぱいのシダ植物しょくぶつやら、名前も知らない草やらが、うっそうとおいしげっています。


 しいの木やクヌギの木のあいだを、さぁーっと風が吹きわたっていきます。

 そのたびに、頭の上で、たくさんの葉っぱがザワザワと音をたてました。


 なんだか、自分じぶんらない世界せかいはいってしまったみたいで、すみれは、すっかりこわくなってしまいました。


「あ、あった」


 夢子がへいきな顔で、道から草むらの中に入っていきます。


 すみれは、おっかなびっくり、あとにつづきました。


 すみれがいついてみると、夢子は森の中のちいさなだまりの中に、じっとしゃがみこんでいました。


 そこには、かわいい花がいていました。


 チューリップをうらがえしにしたみたいな、むらさき色の花。

 まるで、ちょこんと、おじぎをしているみたいです。


 なんとなく、すみれの家においてある、ランの花にもています。


「きれいな花ね」


「うん。これ、カタクリっていうの」


 夢子はその花をつかむと、よいしょと引きぬきました。


「あっ!」


 花をかってにってはいけないと、すみれは、いつも言われています。


 花だんの花も公園こうえんの花も、かってに取ったりしたら、おこられてしまいます。


 だから夢子のおこないには、ほんとうにびっくりしてしまいました。


「ね、ねえ。その花とっちゃって、おこられないの?」


「ええっ、だれに?」


 夢子は、カタクリの花をったまま、きょとんとした顔をしています。


「だれにって……だって、お花は、ながめて楽しむものでしょう?」


「でも、これ食べると、おいしいんだもの」


「えーっ、これをたべるの!」


 すみれは、ほんとうにびっくりしました。

 それを見ていた雪江さんが、ほほほっと、ほがらかに笑いました。


「だいじょうぶよ。私たちがすこし取ったくらいじゃ、カタクリの花はなくならないわ。まい年まい年、同じところに生えてくるもの。この森があるかぎり、森の植物しょくぶつは、生まれわっていくのよ」


「森で、生まれ変わる?」


「そうなの。森がなくなれば、もうカタクリの花はかないわ。お不動ふどうさまのよこにもくところがあったのだけどね。

 工場こうじょうができたころから、ひとつもなくなってしまったの。まい年、わたしたちが食べるために取ってもなくならないのに、工場がたっただけで、一年でなくなってしまったのよ」


 雪江さんの顔が、ちょっぴりさびしそうになりました。


 そういえば、ほんとうの世界で、すみれがおばあちゃんのところに行っても、おばあちゃんからは、山菜さんさいのことなんて、一言ひとこといたことはありませんでした。


 もしかしたら……。


 もう、すみれのいなかでは、カタクリの花はいていないのかもしれません。


 だって、工業団地こうぎょうだんち住宅じゅうたくがたったせいで、山はすっかり変わってしまったからです。


「おねえちゃん。あそこに、ヨモギがあるよ」


 夢子は、カゴを雪江さんにあずけて、あちこち走りまわっています。


 そのたびに、キクの葉ににたヨモギやら、大きくて丸いフキの葉やらを取ってきます。


 ひょろりとのびたくきの先に、あかんぼうの手がまるまっているようなワラビ。

 くるくるまいた、ゼンマイ。


 青くって毛がいっぱいのウド……。

 ほんとうに、いろいろな山菜さんさいを見つけてきました。


「すごい。これ全部ぜんぶ、たべられるの?」


 すみれには、おどろくことばかりでした。


 だって、夢子の取ってきたものの中には、タンポポの花とか、なんと自分の名前とおなじ、スミレの花さえもあったのです。


 最後に、見たことのある雑草ざっそうを見せられたときには、思わず「うそー!」とさけんでしまいました。


 その雑草は、公園のうえこみや、道のはしっこ、それこそどこででも、かんたんに見つけられるものだったからです。


「これ、オオバコっていうの。てんぷらにすると、おいしいんだよ」


 すみれは、とても食べる気にはなれませんでした。

 だってそれは、学校のトイレのうらにもはえている草だったから。


 でも、けっきょくあとで食べてみて、とってもおいしいのにビックリしました。


 すみれの見つけることのできた山菜さんさいは、スーパーマーケットにも売ってある、クレソンによくにた草だけでした。


 それは、きれいな小川のそばに生えていました。


 でも夢子は、それを見ると「セリね。でもわたし、それってニガいから、きらい」と言って、すみれをがっかりさせました。


 夢子の大かつやくで、おひるになるまえには、ザルは山菜でいっぱいになりました。


 そこで、おじさんがむかえにくるまで、道のそばで、おべんとうをたべることにしました。


 みんなは、おべんとうをつつんでいたふろしきを広げ、その上にすわってたべました。


 おべんとうは、大きなおにぎりと、きいろいタクアンだけです。

 のみものは、森の中にわき出ている水を、たけのつつに入れてきました。


 いつもなら、そんなおひるごはんだったら、「いやだな」と、まゆをひそめるところです。


 でも、おなかのへったすみれには、とってもおいしくかんじられました。


 そして食べおわったころに、パッパッパッと音が近づいてきて、おじさんのオート三輪さんりんがあらわれました。


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