第2話 駅のロータリー

2-駅のロータリー


それから55年後、私は仕事を退職し、親の介護をしながら暮らしていた。朝の用事が終わりテレビを見ていた時、ちょうど11時半ごろ突然映像が切り替わり、大物政治家が夢に見た駅の北側のロータリーで演説中に撃たれたという報道が始まった。犯人は手製の銃で大物政治家の背後に忍び寄り至近距離で一発放った。しかしそれが逸れて奥にあるビルの壁に散弾がめり込んだ。犯人はもう数歩近づき政治家の頭を狙いもう一本の銃で一発発射した。そこにはSPはいなかった。大物政治家だが大役を果たし、応援に回る立場となっていたので、警察も警備を密にはしていなかった。政治家は倒れた時にはまだ意識はあった。だが見る間に色が悪くなり意識がなくなった。私は一瞬で子供の頃に見た夢の事を思い出した。夢の中で最初に来た救急隊員の3人のうち一人はヘルメットは付けていなかった。私の隣に座り倒れている男性を俯いてじっと見つめ、やるせない表情で手は震えていた。55年後に起こったこの狙撃事件では、すぐ隣のビルの開業医が呼ばれたが、出血多量の被害者の生命を維持できるような設備も血液も止血器具も何もあるはずもなく、「手のほどこしようがない」歯がゆさに開業医はその場で項垂れた。おそらく手は震えていたであろう。私には現場の状況が容易に推測できた。まったく夢の通りの状況が起こったのだと不思議な気持ちになっていた。

近隣には大きな病院はいくつかあったので、もし救急搬送されるなら家の表通りをかならず通過するはずだった。それで 撃たれた大物政治家が運ばれるのを耳を澄ましてずっと待っていたがいつまでたってもサイレンの音は聞こえて来ない。とうとう来なかったのでその行方が気になっていた。後でニュースで知ったことだが、亡くなった政治家に後押ししてもらっていた地元選出の女性政治家が、配慮して緊急手配を行い、30分かけてヘリコプターで大学病院に運んだのだった。それは「検死」を意味した。

表向きに病院は、治療の為に輸血を行い弾の所在を確認し、摘出を行ったが蘇生はできなかったと発表したが、致命傷が何だったか、殺傷に使った銃の種類を特定する、また弾道確認だったと思われた。それくらい殺傷力の強いものを犯人は使用したのだった。

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