第15話 早くも全員集合

「……これ、アイラだ」


 昨日喚きながらログアウトしたアイラのキャラで間違いない。


「よし、今日も頑張るわよ……ってあんたら何してんのよ!」


 こちらも昨日と変わらず魅惑的な声だ。


 まあ驚くのは仕方ない。アイラからしてみれば、ログインしたらなぜか自分のキャラが二人の男性キャラに挟まれているのだから。


「マノちゃんじゃん。元気にしてたか?」

「あ、ナナさん! はい、すごい元気です!」


 二人とも、俺と話すときとテンションが違うような気がする。どうやらかなり仲良しみたいだ。


「で、そこにいるのは……ナイさんね。昨日はあまり喋れなかったけど、これからよろしく」

「よろしく。……なんだろ、昨日はもっと怒ってた気がするんだけど」

「一日経ったことを引きずるほど子供じゃないわよ。……それとも、キレまくってる方が良いかしら。もっと暴言を吐いてほしい?」

「うん。俺マゾだからさ」

「……ギャングとして頑張りましょうね」


 ちょっとしたボケが思いっきり無視されたことはさておき。


 交渉してギャングのメンバーになってもらったわけだけれど、モチベーションが高いみたいで安心した。七瀬の言っていた通り、ギャングに入りたい気持ちはあったのだろう。


 ……にしても、七瀬との会話を見た後だと、やはり壁を感じる。仕方のないことだけど。

 まあ、そんなものをいちいち気にする俺じゃない。


「ナイたちは今から中型強盗か?」

「いや、ウラがログインしてるか分かんないし……他にやるべきことがあるんだ」


 昨日アイラが説明してくれたこと。大きく分けて三つあるのだけれど。


「それに関しては、あたしがある程度やっておいたわよ」

「え? いやいや、やるタイミングなかったでしょ」


 何をしないといけないのかを俺とウラに伝えた後、アイラはすぐに泣き喚いてログアウトしたはずだ。


「……突然ログアウトしたのが申し訳なくて、寝る前にまたログインして少し進めておいたの」

「めん……良い性格してるね」

「その言い方は嫌味を言う時しか使わないぞ」

「うるさい。七瀬は黙ってて」


 めんどくさい性格と思わず言ってしまうところだった。危ない危ない。


「言っておくけど、ウラちゃんのためにやったんだから。ナイさんのためにやったんじゃないんだからね」

「うん、分かってる」

「ちょっと、今のはどう考えても照れ隠しでしょ。可愛いとか、そういうこと言いなさいよ」

「あのさあ……」


 こいつ、実はめんどくさいって言ってほしいんじゃないのか? 昨日みたいに泣き喚くのはアイラの持ち芸なのかもとさえ思えてきた


「つまり、ウラが合流して準備を終えれば、ナイたちはすぐに強盗に挑戦する、って感じか」

「俺はそのつもりだけど……アイラは?」

「あたしも同じ考えよ」


 意見が一致したみたいでなにより。


「マノちゃんがいるし心配なさそうだな。オレは警察として働かないといけないし、そろそろ行くよ」


 どうやら七瀬は七瀬で忙しいらしい。


「じゃあな、ナイ、マノちゃん」

「はい! また会いましょう!」

「ん、じゃあね」


 ウラのキャラは広場の外にあった一般車に乗って走り出した。……パトカーじゃないし、明らかにNPCから盗んだ車だ。汚職警官じゃん……。


「……で、アイラ。昨日は具体的には何をしてくれたんだ?」

「アジトにする物件を選んで購入しておいたわ」


 強盗の勝利条件の一つに、盗んだ金を全て拠点に持ち帰る、というものがある。これを達成できるようにするためにも、拠点となるアジトを持っておく必要があったのだ。


 このゲームの初心者である俺とウラはアジトとして最適な物件が分からなかったため、アイラに一任することになっていた。


「かなり良いアジトだと思うわよ」

「いいね。マジで助かる。ありがと」

「……声に感情がないから、本当に感謝してるのか分からないわね」

「よく言われる。すまん」


 こればっかりは我慢してもらうしかない。


「仕方ないわね。……じゃ、早速アジトに向かうわよ。少し説明しないといけないこともあるし」

「オッケー」


 俺とアイラのキャラが広場の外へと歩き始めた、ちょうどそのタイミングで。


 また別のキャラが突然現れた。誰かがログインしたのだ。


「お! ナイにお姉ちゃんじゃないか!」


 昼間から元気のいい声だ。ウラらしい。


「……あれ、昨日は朝からやるって言ってなかったか?」

「寝過ごしたんだ!」

「あ、そう……ちょうどいいところに来た。アジトに行こう」

「ん? アジト? もう買ったのか?」

「移動しながら説明するわ。……実はね、あたしが昨日――」


 アイラは先ほど俺にしてくれたのと同じ説明をした。


「すごいな! 流石はお姉ちゃんとしか言いようがない!」

「ふへへ、褒められちゃった……いひひ……」


 笑い方がキモイなと思いながら、俺は通りがかった一般車を強奪する。


「さ、乗ってくれ」


 アイラの運転で、俺たちのキャラはアジトへと向かう。……警察署みたいにカッコよかったら嬉しいな。どんな建物なのか、楽しみだ。

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