第16話 アジト到着
少し走ったところで車が停まった。都市部の中、周囲に見えるのはガソリンスタンドといくつかの高層ビル。
……そして、このアメリカっぽい街並みでかなり違和感を放っている建物が一つ。
「着いたわ。ここよ」
「めちゃくちゃカッケえええええ!」
「なんか……声、大きいね」
「ん? それがどうかしたのか?」
「うるさいんだけど」
「ひっ……ごめん……」
軽く(?)注意したところで、車からキャラを降りさせる。……ウラの言う通りカッコいいのは間違いない。
「なんか……中国マフィア、って感じ?」
正面には大きな門がそびえ立ち、その中には広い屋敷が待ち構えていた。屋根は瓦だが、それ以外は木製。最たる特徴はやはり全体的に真っ赤であることだろう。美しい朱色が日光に照らされて力強く派手に輝いていた。
「すごいのは外だけじゃないのよ」
そう言うと、アイラのキャラは鍵を渡してきた。
「インベントリには表示されないけど、これで二人のキャラはこの建物のマスターキーを持ったことになるから。これからは自由に出入りできるわ」
当然だけど鍵がある。これで警察が中に入れないようになっているのだ。
「さ、入って入って」
アイラに言われて早速建物の中へ。門を通り、屋敷の扉を開く。
内装も全て木製。重厚感を感じさせる高級そうな椅子や机が並んでおり、壁や窓枠にはシームレスな幾何学模様が散りばめられている。最も奥にある壁には掛け軸があり、そこには見たことのない漢字がいくつか達筆で書かれていた。
ドラマでしか見ないようなものが、ゲームの中で完全に再現されている。
「やっべええええええええ!」
「お前……いや、もういい」
数秒経ったら全て忘れる都合のいい頭をしているみたいだ。鶏よりかはマシだけど、普通にイライラする。
まあ……ヤバいとは俺も思ってるけどさ。
「ふふふ、あたし頑張ったのよ」
「すごいぞお姉ちゃん! 感動した!」
「ふひ、ふひひひひ」
よだれを拭くような音が聞こえた。ちゃんとキモいけど……アジト選びでかなり頑張ってくれたし、多少は見逃すことにしよう。
「……そういえば、一つだけいいか?」
「ひひ……な、なにかしら」
「この建物、何円したんだ?」
まあまあの広さで、この外見と内装だ。高いに決まって――
「2億よ」
「……ん、ごめん、意識が飛んでた。もっかい頼む」
「2億。借金したのよ」
「……」
落ち着いて手元にあったペットボトルから水を飲む。
危ない。もう少しで先ほど食べた昼飯が全て胃の中から放出されるところだった。
「ああ、言ってなかったわね。借金したら、どんなに安い物でも新しく買い物をすることはできなくなるのよ」
「そういう話じゃない。……額に驚いただけ」
「何をビビってんだよ、ナイ! 強盗して稼げばいいだけじゃねえかよ!」
「いやいや、コンビニ強盗を何回やっても2億なんて稼げないって」
警察から逃げ切れたとしても得られるのはたった500万円。二日間コンビニ強盗だけやり続けても2億円に届くかどうか。
「だからこそ、より難易度の高い強盗に挑戦しないといけないのよ」
その言葉にハッとさせられる。難しくなればなるほど、恐らく報酬が増えるのだろう。
ならば、アイラの言うとおりだ。いつまでもコンビニ強盗ばかりしてはいられない。
「そこで聞きたいんだけど……二人とも、最終的には大型強盗の攻略を目指す、ってことでいいのよね?」
大型強盗。この企画の開催期間である三日間で一度しか挑戦できない最難関ミッションだ。
ラスボス的立ち位置にあると七瀬は言ってたし、もちろんその成功が目標だ。
「ああ。俺はそのつもりだ」
「ボクもそうだ!」
「なら今日は中型強盗で経験を積んで、最終日である明日、大型強盗をやりましょ」
俺とウラは賛同の返事をする。アイラのおかげで今後の方針が固まった。
「それで……早速中型強盗をやってみる、ってことでいいかしら」
若干その場の成り行きでこのアジトまで来たわけだけれど……特段他にやりたいことがあるわけでもない。このまま中型強盗の準備に取り掛かろう。
「俺は大丈夫。ウラは?」
「ボクも問題ない!」
「分かったわ。まずは説明するわね」
こほん、と小さくアイラは咳ばらいをした。
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