第14話 二日目開始

 ストリーマー企画の二日目。朝に弱い俺だが、珍しく朝8時ごろには目が覚めていた。


 顔を洗い、すぐにメインモニターの前に座る。そこですぐに配信開始……とはせずに、配信の切り抜きをいくつか視聴することにした。昨日会話した人たちがどういう配信をしているかが気になったのだ。


 確認したのは4人。七瀬、ウラ、アセラさん、アイラだ。


 最初に見たのはウラの動画。あいつはVライバーで、いつもFPS、一人称視点のシューティングゲームをよくやっているみたいだ。その腕前は素人の俺でも分かるほど上手い。そんなウラの配信はいつも笑い声で溢れていた。面白いことを全力で楽しんでいる。そんな感じがした。


 次はアセラさん。あの人はウラと違い顔出し配信者で、多種多様なジャンルのゲームをプレイしている。ビデオゲームだけでなく、ボードゲームなどもやっていた。さらに、オフラインイベントの主催という重要な役割を務めることもあるようだ。昨日俺のキャラを車で吹っ飛ばした人とは思えないほど、ちゃんとする時はちゃんとするタイプらしい。


 そしてアイラ。こいつはウラと同じVライバーだが、配信内容はウラともアセラさんとも違う。ゲーム配信もかなりやっているが、俺が気になったのは雑談配信だ。楽しそうに喋るアイラの様子は見ているこちらを微笑ましくさせる。それで人気がある理由が分かった気がした。


 最後に、七瀬。元々、歌い手であることは知っていた……のだけれど。こいつ、めちゃくちゃゲームが上手い。才能、というやつなのだろうか。どんなゲームをやっても高水準の実力を発揮している。

 腕前がすごい一方で、体力も化け物クラスだ。七瀬は一度で8時間以上配信をするのがほとんど。それでも疲れは全く見せない。心の底から配信を楽しんでいるように感じられた。


 ……人の配信や動画から何かが伝わってくると、少し恥ずかしくなる。俺みたいにただ生活のための仕事として配信をしているようなやつは、誰にも何も伝えちゃいないだろう。


 まあ、いまさらそんなことを考えても仕方がない。

 気付けば午前11時過ぎ。俺はカップ麺で早めの昼食を取りながら、配信の準備を始めた。




 正午ちょうど。


「じゃ、やりますか」


 配信を開始してゲーム『RED HEIST』を起動し、ストリーマー企画用のサーバーにログインする。


「『こんな早い時間から配信するなんて暇なんですか?』。まあ仕事だからね。キミみたいなニートとは違うんだ」


 視聴者と喧嘩しているうちに、ロード時間は過ぎ去った。

 俺のキャラがスポーンしたのは、昨日スポーンした場所と同じ広場だった。ログインしたらここからスタートするのは絶対なのかな。


 ……このシステム、かなり微妙な気がする。

 オンラインゲームである以上、接続が切れて余儀なくログアウトになる可能性は常にあるわけで。そんなことが警察とのカーチェイス中に起きたら厄介だ。強制的にこの広場まで帰らされて、せっかくの緊張感が台無しになってしまう。

 ってことは、何か特別な理由があるのかな。


 そう俺が考えていると。


「よっ、ナイ。おはよう。偶然だな」

「七瀬じゃん、おはよ」


 低いイケボが聞こえてきた。七瀬のキャラが広場の外から近づいてくる。昨日と同様、クールな雰囲気を強烈に感じた。


「昨日はマノちゃんと会えたか?」


 マノちゃん……アイラのことか。


「うん、会えたよ」

「……感謝の言葉は無しか?」

「感謝って……教えてくれたのは名前だけでしょ? その程度で威張るのってダサいっていうかキモイっていうか」

「おい言い過ぎだろ」


 無意識のうちに昨日のイライラをぶつけてしまっていたみたいだ。


「全く……そんな暴言ばかりじゃマノちゃんはギャングに誘えなかっただろ」

「いや、何とかなったよ」

「……そうか、うん。分かった」

「明らかに疑ってるよね」

「信じれたら信じる」

「それ信じないやつ……というか変な言い方をするな」

「別に変じゃないだろ。意味は通ってる」

「ら抜き言葉。『やれたらやる』に比べて語呂が悪い」

「小言が多いな。姑か?」

「日本語の文法ミスと言葉の聞き心地を気にする姑がいてたまるか」


 はは、と七瀬は小さく笑った。……少し思ったのだけれど、七瀬はかなり話しやすいタイプな気がする。あまり人と喋るのが得意ではない俺でも、簡単に会話を続けられているし。

 そう思ったのだが、七瀬から意外なことを伝えられた。


「ナイって、かなり話しやすいな」

「え? いやいや、逆だよ逆」

「じゃあナイは陰キャってことで」

「黙れよ」

「冗談はさておき。……もしかするとオレたちは似た者同士で、そのおかげで気楽に会話できているのかもしれない」

「は?」


 俺と七瀬が似ている? そんなのはあり得ないでしょ。


 いくらでも違うところは挙げられる。どんなゲームでも上手い七瀬に対して、『あのゲーム』しか得意じゃない俺。知り合いの多そうな七瀬に対して、ほとんどいない俺。イケボの七瀬に対して、ドブボの俺……。


「なんかイライラしてきた。ふざけるなよ七瀬」

「わけわかんねえよ。……そういえば、疑問に思ってることとかはないか? あればサポート役であるオレに聞け」


 加えて面倒見がいいとは。俺なんて学生の頃は困っていそうな後輩を見かけても無視していたというのに。……これは俺がクズ過ぎるだけか。


「疑問か……そうだ。このゲームってログインしたら絶対に広場に来るよね? それって何か理由があるの?」


 さっき思ったことだ。七瀬なら知っているかもしれない。


「ん? いや、それは――」


 七瀬が答えようとしたところで、俺と七瀬のキャラの間に、新しくもう一人のキャラが現れた。誰かがログインしてきたのだろう。

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