第16話「変化」

 その後も何事もなく、ただ荒野にそって歩くだけの日だった。


 そして1日、1日と、日は過ぎていった。


 里を出て、一週間が経った。

 一週間、ただ変化のない荒野を歩き続けるだけの、退屈な日々。

 だが、僕には明らかに変化が起きていた。


「——無明一刃!」


 無明一刃。

 闘力を刀身に集中させ、相手を確実に断ち切る究極の一撃 。

 多大な闘力を用いて、放つため多用はできないが、それに見合う奥義だ。


「マジかぁ……」


 近くにあった巨岩を練習相手にしておいてよかった。

 刀身から放たれたとは思えないほど、大きく深い斬撃が残っていた。

 過去にアイラが放っていたのを見よう見まねで放ったが、まさか放てるとは思ってなかった。


 この一週間の修行で、僕は闘力の知覚に成功していた。

 キタンの言う通り、闘力は纏うように扱う力だ。

 もっと自分なりに解釈するなら、第二の筋肉と言ったところ。

 纏うことで熱とともに、力の源があふれてくる。


「——っ!?」


 突如、後ろから何かが来るのを感じ、避けるように自然と体が動いた。


「うお!? なんで避けれる?」


 そこには、僕の背中を叩こうとして空ぶったキタンさんがいた。


「びっくりした。キタンさんか。いきなり叩こうとしないでくださいよ?」

「いや、大技出したから祝ってやろうとこっそり来たんだが……今なんで俺が叩くとわかったんだ?」

「いや……なんででしょう?」


 自分でもよくわかっていないが、僕は闘力を知覚するとともに、その流れを感じるようになった。

 それは闘力の流れで、相手がどこを狙っているのかを先に知れるようなものだった。

 かつ、今まで技を体に覚えこませて、放っていたためか、先ほどのように闘力が体に近づくと反射的に体が動くようになっていた。


 もはや、未来視に近い予測能力を、闘力を得る過程で手に入れていた。


「どうやってやるんだ? 俺にも教えてくれよ?」

「こう、闘力の流れでなんとなく……」

「……おう、マジかよ。こちゃアイラと同じタイプだな」


 諦めたような声色で、みんなの元に戻っていった。


 そして、いつも通りの調査が始まった。


「どこまで続いているんだろうね、これ?」

「すごく長い」


 アイラの問いに安直な回答をするマホさん。

 森に隣接した荒野は、見渡す限り続いている。けど……。


「キタンさん。この荒野って里からどの方角にいってもあるんですか?」

「ん? ああ、いろんな方向から探したが、結局は荒野に辿り着くな。森で迷ったせいかもしれんが……」


 森は霧に包まれてるが、里で霧は発生しない。だから太陽の方角は確認できた。

 どの方角に行っても、必ず、この壁に辿り着くのなら——


「この荒野、もしかして里を取り囲むようにあるんじゃないですか?」

「……取り囲むように?」


 前に、「里に来たやつも、みんなこの荒野を通って来たらしい」とキタンが言った。

 なら、そんな可能性もあるんじゃないかと思った。


「あくまで予想ですけど……」

「考えもしなかったが……こんなに長いとそんな気がするな」

「出口があるといいんですが……」


 といった感じで森を進み続けて、1日が経ったころ……。


「……ん? なぁ、荒野の先に森がねぇか?」


 ふと、キタンが声をあげた。

 見ると、荒野を分断するように森が広がっている。


「これって……出口では?!」


 そう、約1週間弱で出口を発見した。

 中々長い旅路だったが、ようやくゴールが見え始めた。


「……ん?」


 しかし、不穏な状況になるのは一瞬であった。

 出口らしきところまで行くと、わかりやすく、外への獣道があった。

 基本的にこの森に獣道はない。

 なのにここには不自然にそれが存在していた。


 かつ、森が広がって見えたが、出口の道は幅10メートルほどの幅しかなかった。

 明らかに、人為的に作られたように思える。

 なにかの罠ではないかと。


「ねぇ、あそこに剣が落ちてますが……心当たりあります?」

「あの剣は、俺とは他に森の調査をしている隊の所持品だな」


 そしてその答え合わせをするかのように、不自然に剣だけが落ちていた。

 なにかに襲われない限り、剣なんて落とすことはない。


「……」


 パーティには沈黙が続いていた。

 明らかになにかある……と感じ取っていた。


「……あ、そ、そうです! マホさんの炎のあとを追って、このことを報告しませんか? すぐに行く必要はないですし、里のみんなも安心するはずです!」

「そ、そうだね! そうしよう!」


 少し怖くなり、戻るように提案する。

 すぐに行く必要はないんだ。

 一旦、里に戻るとしよう。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る