第17話「ギガントトロール・前編」
マホさんが作った道を引き返すこと約一時間。
「……おい、こりゃどうなっている?」
キタンが、皆の疑問を代弁するように声を上げた。
マホさんの炎で切り開かれたはずの道に、草木が再び生い茂り、まるで急速に成長しているかのように道を塞いでいた。
「キタン君、この森の草木ってこんなに成長スピードが速いの?」
「いや……周辺調査では、他の森よりやや早いとはされていたが、ここまでじゃねえ。どうなってやがる……?」
つまり、この荒野周辺では草木の成長が異常に速まっている——
よく観察すると、目に見えてではないが、確かにすこしずつ伸びていた。
「……一度出口の道まで戻りましょう。情報を整理しないと」
もう元の道には戻れない。
仕方なく、出口と思われる獣道の前まで進み、一度休憩を取ることにした。
「どうする? これじゃあ、里にも戻れないぞ?」
「んー、じゃあこの道を通って、外に救援要請を出すとか?」
「いや、怪しさ満載の道だぞ? 絶対なにかあるに決まってるだろ」
休憩中、アイラとキタンは次の行動について話し合っていた。
僕も意見は出したが、経験豊富な二人に任せる形で、軽く素振りを始めていた。
新しい技の習得に集中していたのだ。
「飛空剣!」
森に向かって、斬撃を飛ばす。
大振りの予備動作から、剣に乗せた闘力を放つ遠距離攻撃。
「やった! 成功だ!」
初めての成功に思わず喜んだ——が、その喜びは一瞬で打ち砕かれた。
「んー、でも、このパーティなら、何が起きても大丈夫——」
「ウオオオオオオオ!!!」
放った斬撃の方向から、耳をつんざくような咆哮。
間違いない、トロールの声だ。
「……えっと、なにしたのソウヤ君?」
「ご、ごめん……やっちゃったかも」
どうやら、トロールは森の中にも擬態しているらしい。
そして、擬態していたトロールに斬撃が直撃してしまった……。
ドスドスと、地響きのような足音が近づいてくる。
「おい、一体だけじゃねぇぞ、何体もこっちにきてねぇか?」
しかも複数でこっちに向かってるとのこと。
終わった。どうしよう?
「やべぇ、逃げるぞ!」
「退避? どこに?」
逃げようとするが、足音がそこら中からする。
残された逃げ道は、唯一外へ続いていると思われる獣道だけだった。
「この道しかないだろ!」
「みんな、あの獣道に!」
僕らは獣道を駆け出した。
異変はすぐに起きた。
地面が大きく揺れ、地割れが走る。
その裂け目から、何かが現れた。
「ただの……トロールじゃねぇ!!」
通常、トロールの大きさは4、5メートル程度。
だが、目の前に現れたそれは——
「で、でかっ!! 」
軽く20メートルを超える、超巨大なトロールだった。
道を塞ぐように立ちはだかり、こぶしを振り上げている。
「ウオオオオオオオ!!!」
「攻撃が来る!」
こういう時、最初の攻撃は最前線の者に向かう。
いつもなら、タンク役のキタンが受け止めてくれる。
だが、闘力の動きから、巨大なトロールの攻撃がキタンに行ってないことに気づいた。
「——危ない、アイラッ!!」
「……え?」
振り上げたこぶしをアイラに向けて放ってくる。
——間に合わない!!
「——迅雷一閃!!」
稲妻のような速度で、アイラを救出する。
本来はその速度のまま相手を一閃する技だが、剣を振らず、足だけに闘力を集中した。
「大丈夫?!」
「……う、うん!」
アイラが目を見開いて答えた。
すぐ後に「生きてるか!?」とキタンの声が飛んできた。
「こいつは、ギガントトロールじゃねぇか」
「推奨等級は……S級だね」
S級。
今まで僕が対峙して一番高い等級はハルバードのA級。
A級は町の機能停止、または消滅する可能性が出るほどのモンスター。
そして、S級は……一つの国を滅ぼしかねないほどのモンスターということだ。
「気合入れろよ! お前ら!!」
体に闘力を込める。
周りはトロールの群れに、荒野。
逃げ場はない。今ここでやる気のようだ。
「ウオオオオオオ!!」
「キタンさん、来るよ!」
「ああ!!」
トロールのこぶしがキタンに降りかかる。
「
キタンが敵の攻撃を受け止める。
なんて怪力だ。当たれば致命傷は避けられないと思ったが、キタンは力強く踏ん張っていた。
「魔法ちゃんッ!!」
「
直後、超巨大な爆発が、ギガントトロールの顔面を襲った。
紅蓮焔爆。
今までの魔法とは比べ物にならないくらいの大きな炎を纏った爆発。
おそらく、マホさんの中で一番強い魔法だろう。
だが——
「効いてない……?」
ギガントトロールは顔面がすこし欠けた程度だった。
「耐熱魔法……!」
このトロールにも耐熱魔法がかけられている。
マホさんの最高火力でもこの程度とは……。
「……っぐ!!」
ギガントトロールがすこし怯んだ隙に、キタンが受け止めていたこぶしを流す。
「さすがはS級だ。すこし受け止めただけで腕を持ってかれそうになる……坊主、剣士ちゃん! 魔法ちゃんのが効かねぇなら二人が頼りだ! 何度でも受け止めるから攻撃してくれ!!」
「「了解!」」
すぐさま、攻撃に入る。
デカすぎて顔は狙えない。なら、足を集中して叩く!!
「——無明一刃!!」
剣に闘力をありったけ込めて、巨大な足に向けて放つ。
「ウオオオオオ!!??」
大きな傷ができた。たまらず、ギガントトロールが咆哮をあげる。
続けて攻撃をしようとするが、闘力が巨人の足から僕らに向かって見える。
「アイラ、来る!!」
ギガントトロールは僕らに向けて、足払いする。
ただの足払いだが、20メートルというだけで強烈な攻撃となる。
「——見切り切り!!」
アイラが見切り切りを放つ。
深い傷にはなってないが、攻撃を避けれている。
僕も寸前で避ける。が風圧に耐えられない。
すこし体制が崩れる。慌てるな、闘力の動きを見て、避けるんだ。
「——なんだ?」
闘力が見えない。
というより、誰にも向かっていない。
闘力の動きは、攻撃する対象にいつも向かう。
誰にも向かっていないなら、攻撃の意志がないのか?
——いや、違う!?
「地面!?」
ギガントトロールの手が向かった先は、地面。
地面に深く手を突っ込み、まるでちゃぶ台返しのように周囲をまくり上げた。
「——ッ!!」
「やば!!」
体勢を整える暇もない。
地面をひっくり返され、パーティ全体が宙に飛ばされた。
僕は着地に集中した。
そのせいで、相手の次の動きを見ていなかった。
「まずい、みんな、着地に備え——」
そして次の瞬間——僕らは、ギガントトロールの口の中に飲み込まれていた。
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