第15話「闘力の知覚」

 早朝。

 夜の番をする人が増えたからか、最近は深く眠ることができた。

 そのため、自然と目が覚めた。


「マホさん。目が覚めたので寝てていいですよ」

「わかった。おやすみ」


 見張りの最後だったマホさんに睡眠を促す。


「……よし」


 昨日、教えてもらったことを早速練習する。

 いつもの朝練に、闘力を込めれるように。


「闘力を纏う、イメージ……」


 居合抜刀を放つときに、僕は闘力を纏えている。

 普通に剣を振るときでも、あのイメージを思い出すんだ。


 そうして、みんなが起きるまで素振りを行った。




 野営キャンプを片付け、僕らは引き続き、森の調査を行っていた。


「——焔翼ウィング


 マホさんが炎の翼を使って、道を作る。

 朝からずっと魔法を使っているが、疲れた様子を見せない。


 魔法使いは体に宿る魔力を使い尽くすと、魔法を撃てなくなる。

 過度に使いすぎると、意識を失うほどと聞いたことがある。

 だから魔法の使いすぎには気を使わないといけないはずだが、昨日も躊躇なくぶっ放している。


 実際には疲れているのかもしれないが、相当の魔力量を宿しているのだろう。

 まさにA級の実力だ。


「相変わらず、進みにくい道だね……」

「強いモンスターがいなくてよかったですね」


 森を進んだ体感でしかないが、この森にはC級以下のモンスターしかいない。

 しかも、なかなか襲いに来ることはない。

 食料には少し困るが、無駄な体力を使わないで済んでいる。


「キタンさん。もしかして、モンスターって闘力を知覚しているんですか?」

「よくわかってるじゃねぇか。モンスターも闘力をなんとなくわかってるようでな、強い個体は闘力を込めて、威嚇をするらしいぞ」

「キタンさん、今闘力を込めてます?」

「そいつは見りゃわかるぜ」


 と試すような形で返答された。

 キタンは僕に闘力の知覚をさせようとしている。

 これも闘力を扱うのにちょうどいいのだろう。


 その日は、一度も戦闘がない状態で終わった。

 キタンが闘力を込めているか気になりながら、眠りについた。


 次の日。


 その日の朝も、闘力の練習を始めた。

 まだまだ闘力を知覚できていなかった。


 居合抜刀以外の技でも闘力を使っているため、ほかの技を使うイメージを立てて、何度も剣を振った。

 だが、意識して使えるには至らなかった。


 僕は一つの仮説を立てた。

 闘力の知覚には近くで見るほど分かりやすいのでは、と。


 昨日、闘力を込めているか聞いた時、キタンは「見ればわかる」と言っていた。

 キタンは手を触れて、僕に宿る闘力の大きさ? を図っていたこともあり、近くに行くほど闘力を理解できるのだろう。


 ということで。


「……坊主、今日はやけに近くねぇか?」

「き、気のせいですよ~」


 僕はキタンを近くで観察することにした。

 あくまで仮説だが、闘力を込めることで、モンスターを近づけないようにできると思う。

 現に、食料確保以外、全くモンスターと遭遇しないのだ。

 等級の低いモンスターでさえ、こちらに気づくとすぐに逃げていく。

 僕と相対した時は、弱い個体でも近づいてくることが多いのに。


 なら、闘力が鈍いモンスターや僕も、闘力を近くで感じれば、知覚できるはずだ。


 ……。

 

 しかし、全く闘力を感じることは出来なかった。

 キタンが闘力によって警戒させているものだと思っていたのだが……。

 なぜだろうか?

 

 しょうがないので、最後の手段に出ることにした。


「ぬお?! いきなり手を触ってきてどうした坊主?!」

「えっと……悪戯です」


 手を触ってみた。

 でも、前のように暖かく、硬くない。

 手には込めてないとか? おかしいな……。


「あれぇ?! なんかいつの間に悪戯する仲になったの?! ちょ、ちょっと、離れて!!」


 アイラがかなり驚いた様子で、こちらに駆け寄って来た。

 僕の二の腕を引っ張り、キタンさんから引き剥がした。

 ああ、まだ闘力を掴めていなかったのに……。


「ソウヤくんは私のだよ! 2年も一緒いた私に悪戯一つしなかったのに、一体どんなたぶらかし方したのさ!」

「えぇ!? 俺か!?」


 アイラが口をぷくっと膨らませて、キタンを睨んでいる。

 なにか変な誤解をされてしまった。

 でも、確かにアイラに悪戯なんてしたことなかった。


「……」

「もう、ソウヤくんももっと私に——」


 ぷにっとアイラの頬を指で突いてみた。


「えい」

「……ふぇ??」


 アイラは頬を赤面させて固まってしまった。

 あれ? 良くなかった?


「……え、えへへ。なに、もう? 私にも悪戯してくれるじゃん!」


 大丈夫そうだった。

 そんなに力を入れていないはずなのに、腕を簡単に引っ張られる。


「……!?」


 その時、周りの木々にいた小鳥たちが一斉に飛び出した。

 飛び出した理由は、莫大な闘力。

 その闘力を僕は二の腕に強く感じていた。


 暖かい?

 アイラの腕がだんだん暖かくなる。確実に温度が上がっている。

 キタンの闘力とは伝わる大きさが全然違う。

 闘力のカギは……熱か?


「ん? どうかした?」


 アイラはなにも感じていないようだ。

 2年も一緒にいたのに、これだけ膨大な闘力に気づかないとは。

 素直に自身の未熟さを反省しよう。


「みんなまだ?」

「わりぃな魔法ちゃん。天才がじゃれてる」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る