Chapter 3|香りと食で、こころを包む

「気のせいかも」が、ほんとの癒しだったりする


考えすぎて眠れない夜に、ふと部屋の明かりを落としてアロマを炊いてみた。

静かな香りが部屋に広がって、

その瞬間、「あ、今の私、ちゃんと呼吸してる」と気づいた。


香りには、不思議な力がある。

何も説明されなくても、言葉がなくても、

“わたしを取り戻す感覚”を、そっと運んできてくれる。


香りを選ぶ基準は、「なんとなく心地いい」がすべて。


たったそれだけのことなのに、

落ち着かない思考が静かになったり、

悲しみがふっと和らいだりする。


誰にも見せない不安を抱えていた夜に、

「香りが味方でいてくれた」そんなふうに感じることもあった。


考える癖は決して悪いことじゃない。

ただし考えすぎても結局は何もうまれないなら

ちゃんとリラックスして眠れるようになったほうがいい。


◾️食べることで、心を整えるということ


疲れているとき、私はよく中華粥をつくる。

お米を水でことこと煮るだけ。

そのシンプルな工程が、もう癒しだったりする。


薬膳の考え方では、**「食べもの=薬」**というよりも、

「今のわたしに、どんな食材が寄り添ってくれるかな?」という感覚で選んでいく。

季節、体調、感情の動き――全部つながっているから。



🥣 心が疲れたときのやさしい薬膳レシピ


『なつめと生姜のやさしいお粥』


材料(1人分):

・白米 1/4カップ

・水 2カップ

・なつめ(種を取る)2〜3粒

・生姜(千切り)ひとかけ

・塩 少々(好みで)

・ごま油 少し(仕上げ用)


つくり方:

1. お米を洗って鍋に入れ、水・なつめ・生姜を加えて火にかける

2. 沸騰したら弱火にして、20〜30分コトコト煮込む

3. とろとろになったら、塩でほんのり味を整える

4. 器に盛って、ごま油をひとたらし。できあがり



なつめは、心と血を養う“気血双補”の食材。

生姜は、冷えや滞りを温めて流す役目。

白米には“補中益気”といって、胃腸から元気を立て直す力がある。


目に見えない疲れを、やさしくほどいてくれるお粥。

スプーンを口に運ぶたびに、少しずつ「わたし」に戻っていく感覚。



「ちゃんと食べる」って、

ただ栄養を摂ることじゃなくて、

“今のわたしをケアする”行為なんだなと思う。


心が疲れている日は、カロリーや栄養より、

「やさしい味」「ぬくもり」「香り」を選ぶ。

それだけで、体も心も、ほんの少しずつ回復していく。


食べる・香る・呼吸する――わたしに戻る行為


忙しさに追われていると、

自分の感情に気づかないまま一日が終わることがある。

なんとなく落ち着かない、何に疲れているのか分からない、

でも確かに心がどこか遠くに行ってしまっているような感覚。


そんなとき、私は“身体”のほうから心に戻るようにしている。


あたたかいお粥を、ことこと煮て、やさしい香りに包まれながら、

ゆっくりとスプーンを口に運ぶ。

ハーブの香りを胸いっぱいに吸い込み、

深く静かに呼吸をする。


それだけで、

あのザワザワした思考が少しずつほどけていく。


食べること、香ること、呼吸すること。

どれも当たり前のようでいて、

“今ここ”の自分に戻るための入り口なんだと思う。


どこかに忘れてきた“わたし”を、

日々の小さなケアの中で、もう一度そっと迎えにいく。

その繰り返しが、癒しの正体なのかもしれない。


「わたしを癒す」というのは、

何か大きなことをすることではなくて、

ただ、*わたしを丁寧に扱ってあげる”ということ。


食べる・香る・呼吸する。

それは、わたしに戻るための、

とても静かで、力強い行為なのだ。

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