2
夜空に目を凝らす。空いっぱいの星たち。夏の夜の空気は甘い。他の子たちの声が聞こえた。「あつ! 今、流れ星通った!」「どこどこ!?」
私も集中して空を見る。そしたらひゅうっと――。星が線を引いて動いた! あれが流れ星なの!? ほんとに一瞬だったけど!
「今の見た!?」
千早が私に声をかける。
「うん!」
「願い事した?」
「忘れてた! あっ、また流れたよ!」
コンクリートの固い床に体を預けて、私は夜空をじっと見つめた。空は覆われてないって――誰かが言って、あ、そうだ、私だ。四季に、温室でそう言ったんだ。
この空は覆われてない。空には壁がない。外の世界に通じる空だ。
この空の下に、同じ空の下に、マスターたちがいる。私たちが仕えるべき人たち――。
――――
時間より少し早いけれど、私たちはお開きにすることにした。
流れ星はそれなりに見たし。思ったほど、次から次に星が流れてくるって感じではなかったけど。
シートを片付けて、階段を下りていく。四季はクラスメイトの男子たちと楽しそうにしゃべってる。それを見て、少しほっとする。
「校舎の中をあちこち見て回りたいなー」
一階の廊下を歩きながら、如月が言った。
冬馬が苦笑する。
「駄目だよ」
「まだ時間はあるし」
「でも……」
「四季だけ帰して、俺たちはまたここに戻ってくるとか!」
明るい四季の声に、千早が突っ込みを入れた。
「流星群を見るという目的だから三好先生は校舎の使用許可を出したんじゃない? 夜の校舎探検じゃ許可は下りるかな」
千早の言い分はもっともではないかと思う。
「何? 僕がどうしたの?」
いきなり声がした。四季だ! いつの間にか近くにいたらしい。
「あ、いや別になんでも……」如月が言葉を濁す。「ただ、夜の校舎ってどんな感じか見て回りたいなーと思って」
基本的に嘘が苦手な如月だった。
「幽霊がいたりして?」
四季がくすくす笑う。私は四季の顔を見る。体の具合は大丈夫なのかな。声は……まあ元気そうだけど。顔色とかは廊下が薄暗くてよくわからない。
「幽霊いいなー」
如月がのんきに言った。私はあんまり幽霊とはお会いしたくないけど……。
「学園7不思議って、あるよね」
四季が言った。如月が話に乗ってくる。
「そうそう。7つのうち1つしか知らないけど」
「13月の話だ」
「そう、それ」
如月は冬馬のほうを振り返った。「冬馬がさー、最近気にしてんの、13月のこと」
冬馬がちょっと困ったように笑って、言った。
「うん……もう少しで卒業だから。卒業したら、13月の謎なんて調べようがないし」
「13番目の扉があるんだよね」
歌うような――少し不思議な口調で四季が言う。「その扉の向こうに、13月があるの?」
「そうだよ」
「13月って……何?」
四季の質問に、私たちは黙る。四季は立ち止まり、私たちも足を止めた。
四季が、私たちに言った。
「探してみようか、13月の扉を」
女の子が二人、談笑しながら私たちの横を通りすぎていく。私たちは止まったまま、誰も何も言わない。冬馬がその沈黙を、断ち切るように破った。
「もう遅いよ。早く帰ろう」
「約束の時間まで、まだいくらかあるよ」
「みんなを校舎の出入口で待たせることになる」
「そ、それに、幽霊が出るかも!」
私が声をあげた。冬馬は四季を帰らせたがっている。私も冬馬と同じ気持ちだし、それに助太刀する……わけでもないけど。というか、シンプルに幽霊が怖い。
四季が私を見て笑った。
「たしかに、幽霊はありがたくないね。でも僕は――」四季の声が迷うように揺れる。「僕は――13月が何か知りたくて……」
四季の声が頼りない。本当に具合が悪いんじゃないの、と心配になってくる。私は少し四季のほうに近寄る。
四季はふらつきながら、廊下の壁際に寄った。手で壁を探り、そこに身をもたせかける。四季はうつむいて言った。
「……君たちが言う13月が何なのか……」
ぐらりと四季の体が揺れた。四季が、力を失ってその場に沈み込む。私たちは慌てて、四季のほうに駆け寄った。
――――
四季が倒れてしまったので、急いで私と千早は先生を呼びに行った。三好先生を始め、何人かの先生が駆けつけてくる。それから救急車も。一緒に流星群を見た子たちも一体何があったのか、集まってきた。
楽しい夜の行事は、混乱で終わってしまった。でもさいわい、四季の容態はそこまで悪くなかった。3日後、面会の許可が出たので、私は四季のお見舞いに行った。
学園にも病院はある。私たちだって、怪我や病気をすることはあるから。そこに四季は入院している。私は一人で、何か手土産を持って行ったほうがいいかなと考えた。
思えば、入院患者のお見舞いに行くのは初めてだ。マスターの書いたお話などには出てくるけど……。果物がいっぱい入った籠とかを持っていくんだっけ? でも私たちは果物を食べないから……。迷ったすえ、私は手ぶらで行くことにした。
四季のいる病室に通される。個室で、綺麗に掃除がされてある。ベッドの上に四季がいた。
元気そうだ。いや、元気ではないよね。入院しているのだし……。でも四季は穏やかにほほえんで私を迎えてくれた。顔色もそんなに悪くない。
夏の午後のことだった。お昼寝するのにちょうどいい時間。ひょっとして……ちょっと迷惑だったかな。
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