第3章 夏休み

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 夏がやってくる。学園で、最後の夏だ。


 だから、この夏はうんと楽しむことにする! 学園にはもちろん、夏休みがあるわけで、私は精一杯遊ぶことにした。


 千早たちとプールに行ったし、川遊びも楽しんだし、読みたい本も読んだしゲームもしたし、勢いあまって新しい水着まで買っちゃったよ。ひと夏だけ来て捨てるのももったいないから、外の世界にも持っていこうと思う。


「でもどうしよー」私は千早に言った。「外の世界の流行と違ってたらさあ。マスターたちに、ダッサ! とか思われない!?」


「私たちのほうが新しい人類なんだから、これが最先端なんですけど? って言っとけばいいじゃない」


 千早があっさりと言った。私たちはマスターに仕える身だから、マスターの言うことには逆らえない。でもちょっとした口喧嘩くらいならできるのかなあ。どうなんだろう。


 そんな楽しい毎日を送るある日、夏休みも後半になった頃、冬馬が言った。


「流星群を見る会をしようよ」




――――




 もう何日かしたら、流星群が見られるらしい。で、冬馬は先生にかけあってみたんだって。校舎の屋上で友人たちで集まって流星群を見てもいいか、って。


 夜、校舎に立ち入ることは禁止されている。でも許可がおりたらしい。最後の夏だから。こんなふうに、最高学年には、特別に許されることがたまにある。


 如月がはしゃいでいる。


「やったあ! 俺、夜の校舎って、一度入ってみたかったんだ!」

「昼間とそんなに変わんないと思うけど……」


 私が言う。ただ暗いだけなのでは。でも実は私も夜の校舎にちょっとドキドキしてる。


 それから流星群にも! 見たことないから! そもそも流れ星自体を見たことないよ。


 学園には夏休み中も自由に使える集会所みたいな建物があって、私たちはそこのクーラーの効いた一室に集まっている。千早と私と如月がテーブルを囲んでおしゃべりしてたら、冬馬がやってきて、この話をしたんだ。


 冬馬は一通り私たちに説明したあと、言った。


「もちろん時間の制限はあるよ。10時半までに寮に戻ること。本当はもっと遅い時間が見ごろらしいけど、仕方ないね」


 私たちには就寝時間がある。夜の11時。毎日いつもこの時間までには寝る。そして不思議なことに、11時になるとぱたっと眠れちゃうんだ。起床は6時。やっぱりこの時間になるとぱちりと目を覚ます。


 みんなそうなんだって。私たちは夜11時と朝6時の、その間の時間を知らない。マスターたちの書いた小説などを読むと、心配事があって眠れずに夜明けを迎えてしまうというのがあるけど、私たちにはそんなことがない。


 やっぱり私たちが新しい人類だからかな。マスターと違って、くよくよと悩むということがあまりないんだろう。


「なんだ残念。一晩中起きてたかったのになー」


 如月が不満をもらした。冬馬が笑った。


「起きてられる?」

「起きてられるさ」

「俺は……どうだろう、自信ないな。11時になったらどうしても眠ってしまうんだ」

「私もだよー」


 そう言って、私も会話の仲間に入った。私も一晩中起きてる自信ない。


「そっかあ? つまんないやつらだな。でも夜の校舎は本当に楽しみ」

「星見ようよ」


 千早が苦笑して、如月に声をかける。如月は流れ星というロマンチックなものより、夜の校舎の探検がしたいみたいだ。あ、でも流れ星に宇宙人でも乗ってたら、そっちに飛びつくだろうな。


「他にも何人かに声かけようと思う」冬馬が言った。「クラスメイトとか、違うクラスでも仲良くしてるやつとか。あまり大所帯になると困るけど」


「四季も呼ぶよね?」


 千早が冬馬に尋ねる。


「もちろん」


 返ってきた答えはとても簡潔だった。




――――




 流星群を見る日がやってきた。集まったのは20人弱ほど。


 その中には私と千早と如月と冬馬、それから四季もいた。この計画を話すと、四季はたちまち行きたいと言った。


 でも……ここ何日か四季の体の調子が良くないらしい。今も少し大人しい。まあ四季は普段からはしゃぐほうではないけど。私たちは四季の様子を気にしていた。冬馬が言った。「なるべく予定を早く切り上げたほうがいいかもね」


 日が落ちて暗くなった中を、私たちは校舎の前に集まる。三好先生がやってきて、中に入れてくれた。


 10時半までに、ここにまた戻ってくること。先生に重々に言われて、私たちは愛想よく返事して校舎に入る。


 階段を上って、屋上に出た。夜の風が気持ちいい。暑い昼間と空気が違う。


 持ってきたシートを引いて、私たちはその上に仰向けに転がった。


 私の隣には千早。それから近くには如月と冬馬。もちろん、四季もいる。仰向けに寝転ぶと、視界の先は全て夜空になる。


 えーっと、どの星が何の星座なんだっけ……と考えてると、千早の声がした。


「何をお願いする?」


 なんだろうな……。無病息災とか? なんか違うかな?


「金、金、金! お金が欲しい」


 如月が言った。千早が吹き出し、私も笑う。


「あんまりだよ」


 千早が言った。私もあんまりだと思う。


「そうかあ? 流れ星ってあっという間らしいぞ。その間に3度願い事を唱えなくちゃいけないんだぞ。ごちゃごちゃと長いことを言ってられない」

「それはそうだけど、お金のことじゃなくても」

「愛、愛、愛、とか?」


 これは私。同じ長さで、もう少しましなお願いといえば、こんな感じだろうか。


「どしたのまどか。愛に飢えてるの?」


 千早が茶化すように尋ねる。そういうわけじゃないけど~。「金」と同じ文字数で、ぱっとできたのが「愛」なだけだよ。


「俺たちがいるじゃん」


 如月が言った。如月もからかってる口調だけど、でもほんの少し、何か真面目な色があった。私はなんだか、ふんわりと嬉しくなった。


「そうだね」


 私は言って、そしてみんな黙った。

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