4

 そして他にも、私たちは冬眠するけど、マスターはしないというのがある。私たちは12月から2月までの3か月、眠りにつく。その間に悪いところは治るし、体も大きくなるんだ。


 思うんだけど。マスターの体が私たちより弱いのって、完全な栄養食じゃなかったり、冬眠しなかったりするからじゃないかな……。管を通しての食事と、冬眠を、マスターも取り入れればいいのに!


 昼食の後、再び、四季と一緒になった。


 四季が私に尋ねる。


「これから何か予定があるの?」


 特にはない。寮に帰ってゲームでもしようかなと思ってとこ。でも――転校生と午後を過ごすのも悪くない……というか、とてもいい!


「予定はないよ」


 私は素早く答えた。四季が言う。


「僕は学園の散策でもしようかな、と思って」

「私が案内する!」


 この一言も素早かった。あまりに素早かったので、さすがに決まりが悪くなった。四季を見ると……あ、笑ってる。でも嫌、って感じの笑い方ではない!


「じゃあ、お願いしよっかな」


 かくして。私はイケメン転校生と楽しい午後を過ごす権利を手に入れたのだ。




――――




 まずは校舎をぐるっと見て回る。音楽室、美術室、理科室に多目的教室。自習室にちょっとした図書室もある。それから保健室も。まあ我々も強いとは言っても、なんだか気持ちが悪かったり、気分が冴えなかったりすることはあるし。


 校舎といっても一つの建物ではなくて、渡り廊下で繋がれた三棟からなる。で、それが一固まり。そしてここは高学年のエリア、ということになる。


 何しろ6歳から18歳までいるので……。それぞれにエリアがあって、普段はあまり歳の離れた子たちと会うことはない。


 一通り見終わったので、私と四季は外に出る。


 外は晴れてて明るかった。高学年用の小さな講堂があって、それからさらに行くと大きな図書館。校舎の裏手には(今ここからは見えないけど)体育館とグラウンド、テニスコートやプールもある。図書館の先は高学年の寮で、それからさらに行けば年齢が下の子たちのエリアに。


 学園って、意外と広いんだ。実はもっともっと行くと、ショッピングエリアもあるんだよ! といってもこぢんまりとしたものだけど。でもかわいい服とか雑貨とかいろんなものがあって、とても気晴らしになる。


 さらにちょっとした山まである! ハイキングにぴったり! 池も川もある。海は……ないけど。


 学園はぐるりと壁に囲まれている。らしい。私は見たことないけど。壁はなんだか恐ろしいものだと思う。だから近づきたくない。私だけじゃなくて、みんなそう言ってる。


 私たちはぶらぶら歩いた。今日は午後の授業がないから、同じように生徒たちが気ままに散歩してる。そのうち、私たちはある建物の前に来た。温室だ!


「中に入ってみようよ」


 そう言って私は四季を促した。




――――




 中は植物でいっぱいだ。それから鳥! 温室の中では色とりどりのインコたちが飼われてるんだ。


 四季はどういうわけか鳥に好かれていた。ここの鳥たちは人懐っこいけど、四季に対してはいやになれなれしかった。初めて来る人だってこと、わかってるのかな。


 頭や肩に鳥が止まって、四季が困ったように笑っている。


「モテモテだね」


 と、私が言う。そして尋ねる。「動物、好き?」


「うん、好きだよ。犬も猫も、もちろん、鳥も」

「動物って、自分たちに対して優しい人がわかってるんじゃない?」

「そうなのかな」


 優しい心で動物たちを魅了する王子様――。なんだかもう、メルヘンの世界じゃない!?


 私は感心し――そしてドキドキしてきた。なんの花かよくわからないけど、南国っぽい大きな花が咲いている。その香りが――甘く漂う。


 日が差し込んで、道にまだらに植物の影を作る。その中を私たちは歩いていく。私たち以外、誰もいないみたい。何の声も聞こえない。鳥がたまに何か鳴いてる以外は。


 メルヘンの王子様と、私は森を――森ではないけど、植物の間を歩く。ちょっと非日常では。私はおとぎ話の世界に迷い込んでいる……。


「……ここは、学園みたいだね」


 ふいに四季の声が聞こえて、私は空想の世界から引き戻された。


「あ、うん……、というか、ここは学園の内部だから」


 ぼんやりとしていたせいか、四季の言葉の意味がわからなくて私はあやふやなことを言った。


「そうじゃなくて――ごめん、なんだか言葉足らずだね」鳥たちはいつの間にか四季の体から離れていた。本当に、四季がここに初めて来ることをわかっていて、挨拶が済んだから去ってしまったみたい。「僕の言いたいのは……こう、閉じ込められてる感じが、温室と学園は似てるね、ってこと」


「ああ……」考えたことなかったけど。でも言われてみれば、そうかな。「でも学園は空まで覆われてないじゃない?」


 そう言って私はガラスの天井を見た。空がまぶしく、青い。


「そうだね」


 四季は短く、言った。四季の言わんとしているところが、私には上手くつかめなくて、戸惑ってしまう。閉じ込められてる感じが――たしかに学園って周りが壁だからそうなんだけど、広さがあるから、あんまり閉塞感ってないんだよね。少なくとも私には。


 四季って……ちょっと不思議。私たちと少し違うのかな。そんなことはないと思うけど。でも謎めいてる。


 転校の理由もわからない。どうしてこの学園に来たの? そして――そして――。私の夢の王子様なの!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る