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 本当に全く初対面って感じで、私たちは挨拶をしあった。ということは……やっぱり夢の王子様ではないのかな? でも近くで見ると、よりいっそう、似てる! とは思ったけど……。でも王子様は5、6歳。転校生は17、8歳なので、全く似てるというわけでもないけど。


「あっ……」


 転校生が私に気づいた。そしてほほえみかける。


「まどかさん」


「まどか、でいいよ」周りの親しい人はみんな呼び捨てなので。「えっと、四季……くん」


「四季でいいよ」


 転校生は笑ってそう言った。私も笑う。あれ、なんか私たち、いい感じじゃない!? 今日の朝会ったばかりなのに!


 二人そろって図書館を後にする。


「大きな図書館だね」


 転校生が、四季くんが、いや、四季が言った。


 前に行ってた学校の図書館はどうだったのかな。訊いてみたくなったけど、やめた。四季がどうしてこの学校に来たのか、誰か尋ねたのかな。でも尋ねづらいよね。言いたくない事情とかあるかもしれないし……。


 だから別のことを尋ねた。


「本、好き?」

「好きだよ」


 四季の顔が明るくなった。本当に本好きみたいだ。「僕は体が弱くて――。本ばかり読んでたんだ」


 私は四季を見た。華奢な体、白い肌。たしかに体が弱そう……だけども、私は不思議に思った。


 私たちは新しい人類で、マスターたちよりずっと頑丈なんだ。病気や怪我がないというわけではないにしろ、でも、体が弱いというのは聞いたことがない。


 ……ひょっとして、この学園に移ってきたのも、体が弱いことが関係しているのかな……と思ったけれど、やっぱり訊けない。


「まどかも本はよく読むの?」


 私が黙っていると、四季が尋ねた。えっと……えーっと……それほど読むほうじゃないかな……。


「あー、うん……」最近読んだ本を、ついさっき、借りた本を思い出して私は口を開く。「小説とか、好きかな」


 そして急いで付け加えた。「マスターの生活を知るのって、楽しいじゃない!?」


 四季が笑顔になる。


「そうだね。面白い存在だよね、マスターって」


 面白い、とはあんまり思ったことないけど、そうかな。たしかにそうかも。マスターは私たちと違って、面白い……えーっと、興味深い?


「私たちは学園を出たらマスターに仕えなくちゃならないから」私は言う。若干、真面目な気持ちになって。「マスターを傷つけないこと。それに反しない限り、マスターの命令を守ること。そしてこの二つに反しない限り、自分の身を守ること。これは絶対」


 この3つは私たちに深く浸透している。いちいち教わらなくてもいいくらい。これが私たちの中に自然と存在していて、私たちは当然のようにこれに従って動ける。


 といっても、マスターに会ったことはないんだけど(おっと、ここに来る前の空白期間は置いとく)。でも私はマスターに会ったらちゃんとそれを守れると思う。


 だって、私たちは新しい人類だから。


 マスターは古くて、弱くて……。だから私たちが守ってあげなくちゃ!


 と、考えているうちに、私は自分がお腹が空いていることに気づいた。


「お昼済んだ?」


 私は四季に訊いた。四季がどういうわけか、どきりとした顔になった。


「えっ、……いや、まだだけど」

「じゃあ、一緒に食堂に行こうよ」


 食堂は寮や校舎にある。寮は女子寮と男子寮があって、四季と私では同じところに入れないから……校舎の食堂だな。


「……いいよ」


 なぜか、返事が一瞬遅れた。四季は何かを考えているようだった。私は不思議に思って四季を見た。けれども表情は、いつもの穏やかなものに戻っていた。


 私たちは校舎に向かって歩き出す。学園には植物が多い。春の、まだおどおどと初々しい緑が美しい。




――――




 食堂についた。私は中に入る。けれども四季がついてこない。


 どうしたのだろうと思って振り返る。入口のところで、四季が止まっていた。


 その顔に――動揺? とでも言えそうなものが浮かんでいた。ううん、動揺というより困惑? どうしたんだろう。食堂に変なものはないし……。それとも、前の学園の食堂とずいぶん違う、とか?


「どしたの?」


 私は尋ねる。四季が、はっと我に返った。


「いや……なんでもない」


 食堂の中にはずらりと扉が――その扉の向こうは小さな個室になっている――が並ぶ。私はその一つに入っていった。


「じゃ、また後でね」


 私は四季にそう言って扉を閉める。


 個室の中には椅子が一つ。ゆったりとした大きな、リクライニングの椅子だ。私は上着を脱ぎ、シャツの袖をまくりあげる。そして椅子に座り、体を楽にさせる。


 天井から、管がいくつか下りてくる。それが私の剥き出しの腕に触れる。私は目を閉じる。


 気持ちがいい。栄養が、体に入り込んでくるのがわかる。お腹、空いてたんだあ。




――――




 私たち新しい人類と、マスターの違いっていろいろある。たとえば、食事はだいぶ違う。


 マスターは食材を調理してそれを口で咀嚼して体内に入れる。でも私たちは管で必要な栄養が体内に送られる。私たちのほうが効率的じゃない? やっぱり新しいからかな。


 マスターが作る料理にはいろんなものがあって、いろんな味が楽しめるらしい。私たちの食事も……うーん、でも楽しみというか気持ちのよさがあるから、そんなに悪いものではないと思うけど。


 それにマスターは生きてるものを殺して食べちゃうんだよ。牛とか豚とか鶏とか。これはちょっと……私は勘弁したいな。

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