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転校生が自己紹介をする。
この顔は知ってる……気がする! 夢に出てくる、あの男の子じゃない!?
――――
「千早、千早!」
朝のホームルームが終わって、私は千早のほうにすっとんでいった。
千早が私を見る。
「何、どうしたの?」そしてふふふと笑った。「転校生、イケメンじゃん!」
「そうなのそうなの、いやでも今重要なのはそれじゃなくて」私は擦り寄ってくる千早に言った。「もっと奇妙なことが起きてるの!?」
「奇妙なことって?」
千早が尋ねる。私は転校生のほうを見る。彼の周りにクラスメイトが集まってる。率先して声をかけてるのは如月だ。如月は人が好きで面倒見がいいからなあ。
「あのね……あの転校生……私の夢の王子様……かも!」
「どういうこと?」
「似てるの! よく似てる! 私が毎回夢で見る男の子と!」
私はいつも同じ夢を見る。同じ男の子が出てくる夢だ。5、6歳くらいの男の子で、こちらにほほえみかけてくれる。私はそれが嬉しくて、なんだかせつなくて、そしてあの男の子のことが好きなんだ、って思う、そんな夢。
私たち新しい人類は夢を見ない。どういうわけだか見ない。でも私は見るんだ。そして毎回同じ男の子の夢で……。不安になってお医者さんに相談したこともある。でもそういう新しい人類も稀にいるんだって。だから、心配しなくていい、って。
夢の話は千早にも言った。如月にも冬馬にも。誰も夢なんて見ないから、不思議だねって話になった。それで千早が言ったんだ。その男の子、まどかの王子様なんじゃないの? って。
この学園に来る前に仲良くしてた子なのでは、って。二人は、まどかとその男の子はとても仲良く、王子と姫のようで、将来を誓い合い……って、千早は変なところでロマンチストなんだよ。
でも、将来は誓い合ってないかもしれないけど、仲良かった男の子、ではあったのかもしれない。だから私は思い出そうとした。この学園に来る前のことを。でも――思い出せない。
私の頭が悪いせいではないんだよ。ここの学園の子たちはみんなそうなの。ここに来る前のことを思い出すことができない。でも新しい人類ってそういうものなのかもしれない。あまり過去を振り返らず、くよくよしないというか。
まあともかく。その夢の王子様が――王子様が成長したとおぼしき姿が――。今ここに現れた、ってわけなのだ!
「あの子が……そうなの?」
千早もまじまじと転校生を見る。そして真面目な顔をして私を振り返って言った。
「イケメンじゃん」
もう千早はそればっかりなんだから。よっぽど重要なんだな、イケメンという要素が。
そしてからかうように笑った。
「まどかったら、もう~。あんなイケメンと深い仲なんて」
「深い仲かどうかは知らないけど。あと、似てるってだけで同一人物というわけでは」
そもそも夢の人物が実在しているかどうかもわからない。でも……変なことではあると思うよ。夢の中だけで会ってた人とよく似た人が現実にもいるなんて。
「たしかに、イケメンって大体同じ顔だもんな」
イケメンではしゃぐわりには、認識の雑な千早だった。そして千早はあっさりと言った。
「訊いてみればいいじゃん」
「訊く?」
「そう。あなたは私の夢の王子様ですか? って」
「いや、それ無理!」
なんだこの女って思われちゃう!
「じゃあもっと穏当に行こう。以前、お会いしたことはありませんか? にしよう。ここに来る前にお会いしましたか?」
……うん、それならありかもな……。千早はまた転校生のほうを見て、愉快そうに言った。
「如月って人間が好きだよね。すぐ仲良くなりたがるの。転校生もたちまち仲間にしちゃうよ。そしたら私たちも転校生と仲良くなれるね」
そうだ……。そしてひょっとしたら彼が私に言うかもしれないんだ。あれ、まどかだ、って。僕だよ忘れたの、四季だよ。ここに来る前、よく一緒に遊んだよね。そして約束したよね、ずっと一緒にいよう、って――。
私の目を見て、あの綺麗な顔で言うんだ……。そんなことになったら、どうしよう!?
――――
今日の授業は午前中までだ。私は寮に帰る前に一人で図書館に寄った。返す本があったから。
図書館は大きな四階建ての建物だ。学園の、少なくない数の生徒が利用するのだから、大きくなくてはいけない。児童書を集めた部屋もあって、ちびっこたちの集団が、おとなしくそちらに向かう。
図書館にはマスターたちが書いた本がたくさんある。そんな本も読みながら、私たちはマスターたちについて学ぶんだ。私たちとマスターは違っている部分がいろいろあるから。
返却をすまして図書館を出ようとすると、そこでばったりとある人物に出会った。――転校生だ! 綺麗な顔の転校生! 私の――王子様?
休み時間、如月が私と千早のところに転校生を連れてきた。私たちは挨拶をして――そして、転校生は私を見て、あれ、まどかじゃん、と――言わなかった。
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