第22話 巫女と触手と泥田坊の恋模様

その日、れんは庭石に腰かけ池を眺めていた「蛸津比売たこつひめの欲望視線が最近強まってる気がする…」


その瞬間、背後から無音で忍び寄る触手――。

 蛸津比売命たこつひめみことが、くすぐりモードのいたずら笑顔で8本の触手を、にゅるりと這わせていた。


 蛸津比売命(今度こそ! 油断してる蓮の首筋にハグ触手決めマース!)


 だが――!


 蓮「煩悩流・弾丸反らし廻し受けっ!!」(第3話参照)


 ズッ!蓮の両足が足首程度、地に沈む


その身体に満ちる大地の気。蓮の腕が、滑らかに振り払う動きに変じ、迫る触手たちをひとつ残らず「するり」と受け流す!


 タコツヒメ「わっ、あぁっ!? 外したネ!? 完全に、ノールックで!?」


 蓮はゆっくりと立ち上がり、額の汗を拭った。


 蓮「残念、地面の振動とタコツヒメの気配、ばればれだよ。」


 蛸津比売命「ムムム、妖気がダダ洩れだったカ……蓮、成長しましたネ……でも次は負けないデス!サラバ!」


 蓮「いいかげん諦めて!」



さらに数日後――午後の煩悩寺。日差しが傾きかけた境内に、マ●タの充電式ブロワーの轟音が鳴り響いていた。


 ぴゅいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!


 蓮は額に汗を浮かべながら、落ち葉や埃を吹き飛ばしていた。掃き掃除より楽とはいえ、騒音は凄まじい。タコツヒメの足音や妖気など、一切感じ取れない。


 蓮「ふぃ〜……やっぱブロワー様は頼りになるなあ。断然ラクだ……」


 ――その背後。

そこへ背後から忍び寄る、ぬるりとした気配――


蓮「ん?……ぐっ!?」


触手に絡め取られ、蓮の身体がズルリと宙に引き上げられる。

逆さ吊り。タコの足のような触手が全身を包み、ぬるぬる、くすぐるように動いていた。


蓮「うわぁあああ!? な、何事!?」


蛸津比売命(恍惚とした表情で)


「『わがしょくしゅの、かいらくのまえに、とりことなるがよいわ!』デス!」

「一番影響受けちゃいけない系統のアニメに影響されまくってるぅぅぅ!」

触手がぬるりと頬をなぞり、腕を撫で、背中に巻き付き――

「……コレコレ。触手で巻いて、好きなだけ撫でまわして……蓮の体温を感じて……」

けれど、どこか物足りなそうな表情になるタコヒメ。困ったように小さく呟く。「ナンカ違う…何か…足りないカンジ」


唐突に、触手がシュルルと解け、蓮が地面にふわりと降ろされる。

タコヒメがそっと近づき、躊躇いがちに、その豊満な身体で蓮に正面からぎゅっと抱きつく。


蛸津比売命(泣きそうな顔で)

「……ワタシ、触手で包むだけじゃ……足りなかった……。本当は、こうして、蓮の心に……触れたかったノ」


そして――


「これが……したかったコト…I…I love you, Ren」


そして物陰からそれを見ている者がいた。スミレである


蛸津比売命が蓮を触手で軽々と吊り上げたとき、彼女は思わず胸を高鳴らせた。

 腕のように自在に動くあの触手が、蓮の腕や腰、背中をくすぐるように撫で回す。息を呑む。――これは、趣味が出てる。タコツさんらしいやり方だ。スミレは触手✕蓮、にエッチな憧れを持っている。


 蓮はうろたえながら顔を歪める。彼女もそれを、正直ちょっと、ワクワクしながら見てしまっていた。

 しかし。


 蛸津比売命が触手を引っ込め、自分の腕で蓮をぎゅっと抱きしめたとき――スミレの心には、ずきんと刺さるものがあった。


「I love you, Ren.」


 甘い声。頬を寄せて、頬を染めて。蓮も、ゆっくりとその手を返した。ああ、それって……もう、そういう気持ちなんだ。

 スミレは、胸がズキリと痛むのを感じた。見ているだけじゃ、もう駄目だ。


 だから――彼女は思わず叫んでいた。


「私だって! 蓮くんのこと、大好きですっ!」


 気がつけば、スミレも抱きついていた。蛸津比売命の腕と、彼女の腕が、蓮をはさむように包み込む。


 あったかい。けど、ちょっとだけ悔しくて、でも――嬉しくて、涙が出そうだった。

 スミレは思った(これは、私たちの始まりだ。)と



その光景を――

 実はさらに物陰から見守っていた者たちがいた。和尚、寧々子、クレオパトラ、の面々。それぞれ手には煮干し、キュウリ、ワイングラスなどが握られていた

和尚『良きかな、良きかな。』

クレオパトラ『覗きとか、私たちちょっと悪趣味じゃないかしら?』

『何をいうか、これは若者たちの成長を温かく見守る先達としての…』


などと見ている三人の前で蓮は二人に交互にキスをし始め、さらには首筋に唇を這わせ始める。

蛸津比売命は蓮の手を取り、その大きく日本人離れした豊かな胸に押し当てる。

スミレも負けじと蓮の指に唇を這わせ始めた。


 寧々子『まて!……三人でおっぱじめる気か?昼間の境内だぞ!?』


 寧々子が一歩前に出て――声をかけようとしたそのとき、和尚が慌てて止める。


 和尚『やめんか寧々子! 本人たちは真剣なんじゃ、いま茶化したら気まずくなるぞい!』

 寧々子『そ、それもそうか……でもさ……』

 和尚『よし、ワシにまかせよ。自然な流れで、遠くから声をかけてやる……』


 和尚は素早く物陰を離れると、食堂へ走り込み、窓から顔を出すと、軽く咳払い。


 和尚「こほん。蓮~、スミレ~、タコツヒメ~。おやつにしようぞ~。冷えた麦茶と団子があるぞい~」


 その声に、3人はぴたりと動きを止め、ぽっ、と赤くなる。


 蓮「お、和尚……そ、その、今行きますっ!」

 スミレ&タコツヒメ「「……はいっ!(即答)」」


 物陰の女二人は、「やるな白骨…」と感心しつつ、しれっと離脱すると、合流のタイミングを見計らうのであった――。

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