第23話 煩悩が為に鐘は鳴る 悪魔の鐘の音色

「じょ、女王様~~っ!ありがとうございましたぁぁ!」


女王様ルミコを呼び出し出張プレイに興じる変態神父ラスプーチンの叫び声が教会堂の中から響く。今日も平和な(?)煩悩寺の境内。



そんな煩悩寺境内に突如出現した、巨大な山羊頭の鐘。


その異様な鐘を前に、蓮は顔をしかめる。


蓮「和尚……これはなんですか」


和尚が得意気に言う。「見よ!これは悪魔バフォメットを象った鐘じゃ!その頭

を突けば突くほど徳が積まれるという画期的発想!」


「いや、発想じゃなくて詐欺では」


「しかも鳴き声つきじゃ。聞け!」


――「め”ぇええぇぇえ!!」


「どこが徳なんだこの音!!!」


和尚「この“悪魔を打ち据える”構図に信者が感動し、お布施が山積みじゃ!!」

賽銭箱には確かに札と硬貨が大量に溜まっていた。


「あと寺の鐘楼になんで賽銭箱なんだよ!」


バン!!

突如煩悩寺山門の扉が音と共に勢い良く押し開けられ


警官の制服姿のメガネ鬼女がツカツカと鐘楼へ歩いてきた。


制服は乱れなし、髪は結い上げ、メガネは鋭く光る。


寧々子「おうヒナじゃん。どした?血相変えて?」


和尚が言う「比那子ひなこではないか。今日も綺麗じゃのう」


「そお?ファンデ変えたのよ~って、そうじゃない!白骨!バフォメット本人が日本地獄経由で正式クレームを入れてきました!!」


蓮「どちら様?」


寧々子「紅蓮夜叉ぐれんやしゃ 比那子ひなこ、あたしの幼なじみの地獄鬼だよ。地獄から出向して来て絶土警察署で妖事課の巡査部長もしてる。和尚とも…」


和尚「クレームとは穏やかでないのう。」


比那子「こんなことすれば、当たり前です!これを見なさい!」


比那子が取り出したタブレットに映る文書には、


【国際悪魔教連合 地獄通達】

件名:「日本の仏教寺院が我々の同胞を型どった鐘を製作し、信者に打たせて金を取っている。極めて遺憾であり、早急な弁明と補填を要求する。」

発信地:ヨーロッパ地獄第六支部


和尚は腕を組んでうなずいた。


「バフォメット殿、噂の割に心が狭いのう。神経質な。」


比那子は鋭く言い放った。

「というわけで、白骨、ちょっと出頭ね。これから某県の“悶極山もんごくさんん”まで同行してもらいます」


和尚「なんとまあ、黄泉の国際問題とは……仏の道も険しいのう」


蓮「いや自業自得でしょそれ!!」


比那子ひなこ「あと“鐘突きによる外貨獲得活動”は、宗教法人規約違反になる恐れもあるから覚悟しておいてね」


和尚(頭蓋骨を押さえ):「……やはり悪魔の鐘は鳴らすもんじゃなく、祀るものかの……」

蓮「悟ってる場合かー!!」




しかし――


蓮「……今、日本の地獄経由で伝えたって言ってましたよね? ってことは――」

比那子「……そう、絶土町のにも黄泉洞はあるけどヨーロッパ地獄には繋がっていないわ。


欧州系の地獄は別ルート、某県の“悶極山もんごくさん”にある国際黄泉洞からしか通じていない!」


和尚「ならば行くしかあるまい。お布施と鐘を守るために!」


蓮「金かよ」



悶極山の国際黄泉洞へと赴くにあたり、安全なルートを確認するべく呼ばれたのは、身鎮大社しんちんたいしゃの眷属女神・玳瑁女命たいまいめのみこと。スミレの育ての母でもある。


夕暮れ時、境内にほのかに潮の香りと共に現れた彼女は、今日もゆったりとした動作で、いつも通り涙ぐみそうな優しい笑顔を浮かべていた。


「皆様、ごきげんよう。この地に満ちる神々の声、そして運命の導きを、この玳瑁女命たいまいのめみことが今、皆様にお伝えいたしましょう。天と地、そして水底の囁きに耳を傾け、甲卜こうぼくをもって正しきみちを明らかに…。」


蓮「おお、なんか荘厳だ……」


スミレ(こくこく)「占いする おかあさん、いつも真剣で素敵です……!」

玳瑁女命はそっと背を向け、甲羅から六角形の骨片?を一枚ペリリ……ッと剥がす。小さな六角形の骨片が、まるで鼈甲べっこう細工のように透き通っている。


それをやおら取り出した長めのバーベキュートングで挟み、

「はっ……」


手際よくイ●タニのカセットバーナーを点火。ボウッ!


焙られる骨片からは香ばしい煙が立ち上がり複雑なひびが入った。


蓮(いやこれ、バーベキューじゃん!)


クレオパトラ「この神様、荘厳と雑が混ざりすぎてない?」


スミレ「違うの!おかあさんはこれが“正式な神事”なの!」


蓮「そういう…ものなのか?」


やがて玳瑁女命は、焦げ目の出方と亀裂の走り具合、そして香りを慎重に確認し、やわらかくうなずいた。


「出ました。“銀翼ぎんよくみち、双鉄のみち海原うなばらみち、災禍の兆し濃く避けるべし。油漆喰あぶらしっくいの路、疾く駆け行けば幸多さちおおく安からん。。」


比那子(メガネを押し上げ)「なるほどご神託、つまり飛行機や電車、フェリーはダメ、速く行けるアスファルトの道、つまり高速道路で悶極山を目指せってことね。」


蛸津比売命たこつひめみこと(感動気味)「タイマイセンパイ、なんて神々しきアウトドア、デス……!」


蓮(心の中で)「……でもトングとバーナーが妙に生活感あるんだよな……」


玳瑁女命は、焼けた鱗を慎重に竹箱へしまい、そっと手を合わせる。


「甲羅は命の延長……一枚一枚が命の無事への祈りなのです……では皆様。どうかご無事で…」


ほろりと落ちた一筋の涙の1粒が、風に散る。


和尚「よし、準備が整ったな!では皆の者、悶極山に――お布施を守りに出発じゃ!!」


蓮「だから金のために行くなっつーの!!」



https://kakuyomu.jp/users/xaren/news/16818792436413685100

近況ノートにて 紅蓮夜叉ぐれんやしゃ 比那子ひなこ玳瑁女命たいまいめのみことの画像をアップしております。

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