第24話 煩悩が為に鐘は鳴る 煩悩珍道中

真夏の早朝、煩悩寺前の駐車場には某県の悶極山もんごくさん」に向けて、出発の準備を整えたセダンが一台。

運転席には比那子。助手席に寧々子。後部座席にはクレオパトラと蓮。そして和尚

「じゃあ出発だ!」


道中の車内。

運転席でハンドルを握る比那子が、助手席の寧々子におずおずと話しかける。

「あのさ、ねねちゃん……言ってなかったけどさ。昔、和尚とちょっと……その……」

「寝たろ?」寧々子はあっけらかんと答えた。

比那子「!!……う、うん……その、ごめん……」

寧々子は笑った。「あたしも川の女神に昇格したからな、度量も広くなったってもんよ。だったら、アタシら“姉妹”みてえなもんじゃねーか。改めて、仲良くやろうぜ、ヒナ」

比那子は目を見開き、そして照れくさそうに笑った。

「……ありがと、ねねちゃん」

「私も仲良くさせてもらうわ」クレオパトラが艶やかに笑った。「立場は違えど、愛した男は同じもの。煩悩という名の沼に落ちた女たち、連帯しましょう」

「そうそう、煩悩共同体な」

「ふむ、善きかな善きかな」後ろから和尚の声が届く。

一同、車内で声を合わせた。

「オメーは少し反省しろ!!」

寧々子が言う「おいヒナ、ちょっと次のサービスエリアで車止めてくれ。」



小さめのサービスエリアを出て快調に高速を飛ばす車の後ろ――にロープで繋がれて、路上を引き摺られている骸骨一体。

「ホゲェェェェ!!」和尚の悲鳴が響く

「認識阻害かかってるから人間には見えねーけど、完全に地獄絵図だな……」蓮がそっと目をそらした。



色々と設備のある大き目のサービスエリア前にてボロボロになりで手足のもげた和尚が、地面に倒れ伏していた。

「これも修行と思えば……」

「いや、ただの罰ゲームだからな!」蓮がツッコミを入れる。

「……でもまぁ」寧々子が呟いた。

「こうやってみんなで出かけるのも、悪くないね」

「川の神と、ファラオと、鬼警部と骨坊主とその弟子の旅とか、どう考えても悪夢の車内メンバーだけどな……」蓮はぼやく


このサービスエリアには温泉宿が併設されていた。軒先から立ち上る湯気と硫黄の香りが、道行く者の疲れを癒す。

「うおっ、けっこう風情あるじゃん」

蓮が思わず声を上げると、クレオパトラが看板を指差した。

「見てごらんなさい、“月見露天・貸切家族風呂”ですって。なかなか風流ね」

その看板を見て、寧々子がふっと笑いながら肘で蓮を突いた。

「今度みんなで来るか? なぁ蓮、お前はスミレと蛸津比売命と一緒に“家族風呂”な」

「えええっっ!? 」

頬を真っ赤にし、声を裏返らせる蓮。

比那子「おやおや〜、若いですねえ〜」

クレオパトラ「まぁ“家族風呂”ですものねぇ」

寧々子「スミレともタコツヒメとも、すっかり良い仲みたいだしな〜」

一堂の冷やかしに囲まれ、蓮はますます赤くなった顔を手で覆うしかなかった。

「やめてくれぇぇぇ……!」

温泉の湯気より熱い空気が車内を包んだ。

和尚は遠く一同の声を聴きながらしみじみと呟いた。

「温泉……それは煩悩と恥じらいを蒸し上げる場所じゃ……」

「黙れ骸骨、反省中だろ!」




「ついに、来てしまった……ってか酷え名前だ?!」

蓮はぼやきながら、悶極山もんごくさん情念寺じょうねんじの山門を見上げた。

その奥には、国際地獄機構・黄泉洞出張所が、あるのだ――。

――ゴロゴロゴロ…と雷鳴のような音が山の奥から響く。

その麓に、ボロ雑巾のようになりながら蓮の背に担がれた骸骨和尚の姿があった。

「なんか重い……! いや骨だから軽いはずなんだけど!? どうして?精神的に重いから?!」

和尚は背中で微かに震えながら言った。

「……左足は7km地点で引き千切れ、右腕は14km地点で中央分離帯に引っかかって持っていかれ……」

クレオパトラ(傘を差しながら優雅に)「右脚は私が包帯伸ばして回収しておきましたわ。トランクに放り込んであります。」

寧々子「つーか、頭だけになってねーだけマシだろ? よく喋れるなぁ」

比那子(サングラスを外しながら)「口先だけで生き残るのがこの骸骨の生き様よ」

和尚「……わし、今、反省モードじゃが……」

そのとき、「情念寺」の山門がゴゴゴと音を立てて開く。

立ち上る黒い霧、獣の咆哮のごとき地響き、異界の気配。

蓮「……で、ここにクレームを入れてきたバフォメットの本体が?」

和尚「いや、違う。バフォはその奥の“国際黄泉洞”の管理者じゃが、ここの山主は別じゃ


情念寺の山門がギィィときしみをあげて開くと――

そこに現れたのは、袈裟姿に尼さんの頭巾、小さな背丈に銀髪。●学生位に見える美少女、しかしただならぬ達観と老獪さを漂わせていた。、「明らかに中身はババア」と分かる雰囲気を漂わせる人物。

「久しいのう、白骨。わしに会いに来たのかの?」

和尚(蓮におぶられた状態)「……うむ、すまぬのぅ、召子しょうこ。拙僧、ただ今移動手段がこれでな……あ、皆、ワシの元カノでここの門番、八百尼やおに召子しうょこじゃ」

蓮「ま・た・か!」


↓八百尼召子のイラスト

https://kakuyomu.jp/users/xaren/news/16818792436496247044

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