第20話 ロシアン種付けおじさんを封印せよ! (前編)

絶土町の商店街、れんはベビーカーとすれ違う。


「またラス顔の子供だ…。最近明らかに増えてる…。」

ラスプーチンが開いた治療院「ロシアンルーレット」


最近では「特に不妊に効果あり」という評判が立ち始め利用者が増え続けているのだ。


「このままじゃいずれ町の一角がラスプーチンの一族に占領されそうだぞ…」



蓮「もうさ、ラスプーチン、祟り神とかそういう扱いにして封印した方がいいんじゃないの?」


寧々子「本来ならその通りなんだけどね……」


和尚(ため息まじりに現れて)「あやつ、ロシアのエクシストが霊的拘束で封印しようとしたらのう『愛なき拘束に従う気は無い! 私は自由であるべきだァァアッ!』とかいって封印を破りよったのよ。」


一同「……めんどくさっ!!」


蓮「まさに邪神ムーブ」




その日、治療院「ロシアンルーレット」の前に現れたのは、黒コートにギターケースを抱えた一人の女――資産家未亡人・ルミコだった。


「ラスプーチーンッ!!」


絶叫とともにギターケースを開け、そこから取り出されたのは……某国軍横流し品とかであろうか。黒光りするアサルトライフルであった


「いつまで結婚をはぐらかす気なのよッ!!」


バルルルルッ!!!


銃声が商店街に響き渡る。ラスプーチンは背後の壁ごと蜂の巣にされ、血に染まった――かに見えた。


だが数秒後。


「ふぅ、生き返った。……これはちょっと痛いですね。服もボロボロ。困りますよ、ルミコ」


そう言って、何事もなかったかのように蘇るラスプーチン。


ルミコはガタガタと震えながら後ずさった。


「な、なんなのよアンタ……人間じゃない……!!」


「マダム。私はただ、あなたの細胞を活性化しただけです。恋も細胞も、ほどほどが肝心ですよ」





蓮に説明する和尚。

「グレゴリーはな、殺されすぎて耐性ついたんじゃ。もはや“死”が彼を諦めた状態」


「逆・死神スルー状態……?」

蓮「あいつ、存在がバグすぎるだろ…。そもそも、なんで日本に来たんですか……」


和尚「ワシが呼んだ。」


蓮「あんたかよ!」




「……あんな不死身男、普通じゃ勝てない」


ルミコは震える脚で身鎮大社しんちんたいしゃのへと向かった。


霊感ある友人から聞いたのだ――「身鎮大社には、恐ろしい“祟り神”が封じられていて、神罰すら与えられる」と。


「よし……その神の力でラスプーチンを――」


バッグに大量の絵馬と初穂料(札束)を詰め、昼下がりの大社へと足を運んだ。


大鳥居をくぐろうとした瞬間だった。


ビィィィィィッ!!!


警報のような高音が周囲に響き渡る。


「な、何!? 電磁波!? 赤外線!? 人感センサー!?」


そして、バチィ!


目の前に巨大な海亀の甲羅が出現する。


「なっ、何よれ……」


ルミコが混乱する中、現れる玳瑁女命たいまいめのみこと


「そこのご婦人… 申し訳ありませんが、“ラス臭”が強すぎて神域の結界に反応しています…」


「ら、らすしゅう……?」


「はい。こちらに漂う残留霊気、精気、アルコール臭、女の業念が強く混ざった特殊臭気で……当社の結界は全力で拒否しています…」


玳瑁女命が持つ和風方位磁針のような木製探知器の針がグルグルと振り切れている。


「うそでしょ……私、もうアイツの影響下なの!?」


「ラス臭は感染します…。性交渉を繰り返したことで濃縮固定化され、呪物判定されてしまったようです。」




玳瑁女命により丁重に塩をふりかけられ、大社の階段に泣きながら座り込むミチコ。

「あいつ……ほんとにバケモン……!」


階段に蛸津比売命がフワリと現れた。


「アナタ、ダイジョウブ? クヤシイネ……」


蛸巫女命はその柔らかい触手で、肩をとんとんと慰めるように軽く叩いた。


「貴方が……邪神ね!? よかった! 力を貸して! あの男、ラスプーチンを消してほしいの!」


しかし蛸巫女命は小さく首を振った。


「ノン、Impossible。ラスプーチン、触リタクナイデス。ドロドロ、気持チワルイ、コワイ……アレ、邪神超エテル」


「な……なにそれ!! アンタが神なのに!!」


「ワタシ、今、癒シ系。ヨク寝テ、ヨク食ベテ、触手はでダンス用デース。ラスに触る、業ガ深スギデース」


「神なのに逃げ腰!?」


絶望するミチコをよそに、蛸巫女命はそっと背後から毛布をかけると、


「デモ、ハッコツ和尚なら…チカラ貸してくれるかもデス。」


「白骨…和尚…」


ラス禍に侵された女がいま、煩悩寺の門を叩こうとしていた――。







続きは明日16:00日公開!

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