第9話 神罰代行 仏罰裁定

ある晴れた昼下がり。

煩悩寺の門前に、一人の神主姿の美青年が立っていた。

白い装束に身を包み、涼しげな目元に気品を湛えるその青年は、神々しさすら漂わせていた。


れんが驚いて声をあげる。


「……誰、あの人……?」


「おお、よう来たの。」

和尚は白骨の手で頭蓋骨を掻きながら縁側に腰を下ろした。


美青年は一礼し、穏やかに口を開いた。


「私は身鎮大社しんちんたいしゃの主神、大身病鎮命おおみやまいしずめのみこと

煩悩寺の白骨和尚、あなたにお願いがあって参りました。」


蓮は耳を疑った。「あの全国でも有名な観光地神社の神様本人!?」身鎮大社しんちんたいしゃ絶土町ぜっとちょう最大の観光地なのだ



神様は静かに話を続けた。


「我が社の巫女の一人が……若い鬼に怪我を負わされました。神の面子として放置は出来ません。しかし、私のはかつて疫病を司った祟り神……私が直接罰すると半径数十キロにパンデミックを引き起こしてしまいます。」


蓮「タイムリーにヤバい!」


「そこで、和尚、あなたに仏罰をお願いしたい。」


和尚は肩をすくめ、首の骨を鳴らした。


「……ワシは只の坊主じゃよ。」


神様はにこりと微笑む。


「一度即身仏になったなら仏でしょう。

仏罰は神罰の代わりたりえます。」


蓮は内心(また無茶な理屈を……)と天を仰いだ。



こうして、和尚と蓮は鬼を探しに出かけた。


やがて山中の社の裏手で、年若い鬼と、傷を負いながらも寄り添う巫女の姿を見つけた。

二人の瞳は熱く交わり、互いを庇うように身を寄せ合っていた。


和尚は腕を組み、しばし見つめ、そして燐光を「^」にしてにやりと笑った。


「ほほう……これはそういうことか。」


蓮が小声で尋ねた。


「……まさか、最初から恋仲だった……?」


「言わずもがなじゃろ。」



煩悩寺に二人を連れ帰った和尚の裁定はただ一つだった。


おなごを『傷物』にしたのじゃから責任を取って、娶れ。それが裁きじゃ」


蓮「昭和かよ」


◆◆◆◆◆◆


再び寺に現れた大身病鎮命も、その報告を受けてほっと胸をなでおろした。


「……なるほど、これもまた良き縁。だが、鬼よ。」


神様はにこりと微笑みつつ、冷ややかな輝きをその瞳に宿した。


「不幸にしたら……今度は巻き添え構わず神罰かもしれんぞ。」


鬼は全力で頭を下げた。


こうして、巫女はやがて寿退職となり、絶土町に小さな縁談が一つ纏まった。

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