第8話 強くなりたい―煩悩、それもまたモチベーション

ある日曜日、れんは町のネットカフェで格闘技動画を見ていた。


プロ格闘家が次々と相手を倒す試合に、少年の血が騒ぐ。


「強いなあ……俺もあれくらい戦えたら」


自分が巻き込まれてきた怪異やヤクザ、そして女ファラオと川女神の死闘が、蓮の中で静か

な決意を生み出し始めていた。


「和尚、俺……強くなりたいです」


「ふむ、煩悩じゃな」


「ち、違いますよ!? 自己防衛っていうか!!だから俺にも煩悩流合気道、教えてください!」


「無理!!」


「即答!?」


和尚は煮干しをかじりながら説明する。


「煩悩流はの、骨のキレ、霊力の波動、そしてエロスを極めし者にしか扱えん。わしのレベルになると、セクシー写真集一冊分のエネルギーで100人を無力化できる」


「習うのやめよっかな……」


しかし、代わりに「人間にもできる範囲で」と、和尚は普通(?)の合気道の型を手取り足取り教えてくれた。


「力でぶつかるな。流れを読み、煩悩を活かせ。目の前の相手がグラビアアイドルだと思うのじゃ」


蓮:「いや意味わかんねえよ! !」


***


そして事件は起きた。


数日後――蓮は通う高校裏の路地で、町外れから流れてきた不良グループと鉢合わせる。


バットにナイフ、人数は六人。完全にアウトな構成だ。


不良A:「おいコラ、ヒョロイ都会っ子ぃ〜、挨拶なしかあ?ちょっと痛い目見るかあ~?」


蓮:「お、お寺で習った合気道、試すのは今しかない……!」


──瞬間、蓮は流れるような動きで不良たちの攻撃をかわし、返し技で一人、また一人と投げ飛ばす!


ナイフ男も、不用意な突きをかわして足を掬い、バット男は体重移動を逆手に取って投げた!


見事!


六人全員を撃退!!


だが本人はボロボロ、顔に擦り傷もでき、右腕も少しひねっている。


蓮:「(やっぱ和尚には到底及ばないな……)」


しかし、現場を目撃していた同級生は絶句。


男子「え……武器持ち6人って、プロの格闘家でも無理じゃね……?」


女子「え、れ、蓮くんって……実はヤバい人……?」


蓮はボロボロになりながらも、高校の裏門をくぐる。


クラスメイトたちがざわめき、担任も駆け寄ってくる。

担任:「山田くん!? そのケガ、大丈夫?」


蓮:「……ええと、まぁ……合気道でなんとかなったんで……」


女子「いや合気道って…そもそも、あんな技どこで習ったの?」


蓮:「……煩悩寺の和尚に」


一瞬、静寂。

――そして。


「「「ああ~~~……」」」


一同が妙に納得した顔になる。

男子「それなら……まあ、うん、そりゃ勝つわ」


担任:「煩悩寺か……あそこは何でもアリだからなあ」


蓮:「なんで全員、そんなに納得してるの!?」


和尚(屋根の上から):「ふっ……煩悩を極めし者は説明不要じゃ……」


蓮:「だから説明してよ!!」


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