第6話 くねくねと嫁入り狐のマリッジブルー


ある夜、絶土町に広がる噂――

「くねくねを見たら狂い死ぬ」

そんな都市伝説が、町外れの畑で囁かれていた。


「和尚!出たんですよ!くねくねが!」


れんは境内に飛び込み、白骨和尚に訴えた。


和尚は相変わらず石段に胡座をかき、涼しげに言った。


「……くねくねか。良い機会じゃ、解決に行くぞ。」


「いやいやいやいや!くねくねって見ただけで狂い死ぬんですよ!?無理 無理 無理!狂い死ぬのイヤー!!」


蓮は必死で抵抗したが、


和尚はあっさり蓮の首根っこをつかみ、ずるずると引きずっていく。


「良いから来るのじゃ。」


夜の畑。

月光に照らされ、確かに何かがうごめいていた。


遠目には白く、細長く、そしてくねくねと揺らめいている。


「で、出た……!」

蓮の膝がガクガクと震える。


和尚は目の奥の燐光を「^」にして笑った。

そのまま悠々と歩み寄るとぺしっと、動くもの付け根を軽く叩いた。


「痛っ!なにするのよ!ってあなた白骨?!」


突然、白い影が振り向いた。


月明かりに浮かび上がったのは、年季の入った色香漂う、狐耳に狐尻尾の女。白い衣に身を包み、どこか気だるげで、目尻のホクロが色っぽい。


「……え、えええ……狐女……?」


蓮の脳がフリーズする。


「タマ、久しいのう、何しとるんじゃ?」


突如狐女は捲し立てるように言う


「何って……、どうでもいいでしょ!それより白骨、私、結婚するの!だから私のことは忘れて!」


言うなり狐はスタスタと歩み去っていった。


蓮「何だったんだ?」


和尚「恐らく、マリッジブルーじゃな。落ち着かなくて畑を徘徊していたんじゃろうよ。くねくねはその尻尾だった訳じゃ。」


蓮「知り合いだったんですか?」


和尚「元カノじゃ」


蓮「なんか大量に元カノいそうだよな」



その夜から、絶土町の「くねくね目撃談」はぴたりと止んだ。そして事件から数日後――


蓮と和尚は、黄昏時の絶土町を歩いていた。


ふと、向こうから並んで歩いてくる二つの影。


女狐――あの夜の「元カノ」と、その隣には優しげな面差しの狐耳の若者。

婚約者だろう。


女狐は和尚に気づくと、ふふっと微笑み、

「あら、ごめんなさいね和尚。あのときはちょっと情緒不安定で……。」


その口ぶりこそ殊勝だが、その表情はどう見てもドヤ顔だった。


蓮はその様子に思わずぎこちない笑みを浮かべた。


しかし和尚は――


「うむ、良きかな良きかな……。」


骸骨のくせに、どこか本当に嬉しそうに燐光が瞬いた。


女狐たちは仲睦まじく去っていった。


蓮と和尚は再び、帰り道を歩き出す。


しばらくして和尚は、ふっと月を見上げて呟いた。


「……あやつ、メチャ束縛なんじゃ。ようやく上手く『擦り付け』できたというものよ。」


蓮の足が止まった。しばし絶句したのち、深いため息をつき、ぼそりと呟いた。


「ヤリチン男の言い草だ……。」


和尚の目の燐光「^」の形になり、夜道にほのかに光った。

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