現代の世界から~南北ペルー統一問題~
第二次世界大戦でのアメリカ合衆国の離脱を決定したプラセンティア会談、一般的には大西洋休戦協定と後に呼称された会議によってペルー共和国は2つの国家に分割された。
1つはリマを首都としてペルー北部に加えて戦時中敵対していたエクアドルの南部を併合した旧来の国旗を掲げるペルー共和国、通称、北ペルー。もう1つはクスコを首都とする新たに誕生した国家、
この両ペルー共和国は成立直後より敵対関係にあり、北ペルーは南ペルーが旧来のペルー領土のうち南部を戦勝国であるチリ共和国に割譲したことを非難し、一方の南ペルーは"不当"に同盟国であるエクアドル共和国の南部を併合した北ペルーを非難した。そして、両国の対立を決定的なものにしたのが言語、そして"民族問題"だった。
第二次世界大戦後、アメリカ合衆国を後ろ盾とした北ペルーは新たな領土も含めた国家の一体性を理想として国内のスペイン語及び英語による教育政策を推し進めながらも、その土着性(時の政権に言わせれば後進性)を捨て去ることはできなかった。北ペルーはペルー北部沿岸に存在したタワンティン-スウユ以前の文明であるチムー文明を称揚し、かつて自らの同化政策で絶滅寸前に追い込んだムチック語を復活させて、自らを南ペルーとは異なる民族として位置付けた一方で同じく先住民の言語であるケチュア語は徹底して弾圧し、かつてのタワンティン-スウユも野蛮な侵略者として非難した。
こうした北ペルーの政策の背景にはペルー="インカ帝国"というイメージを払拭しつつも、観光資源として古代遺跡並びに先住民の文化を活用して外貨を得たいという北ペルー政府の思惑があったが、その本来の担い手であったはずの先住民の多くは貧しい状態が続き、その富の多くは白人やメスティーソに独占されたばかりか、かつてのアメリカ南部をモデルとした人頭税制度によって戦前よりも権利がはく奪される状態が長く続いた。しかし、この政策による宣伝の効果もあり、現代でもアメリカおよび旧アメリカの勢力圏ではチムー文明の知名度は現在でも高いが、"インカ帝国"の知名度はあまり高くないのが現状である。
一方でその北ペルーに対抗した南ペルーは自らをタワンティン-スウユの後継者と位置付けた。これは第二次世界大戦中にアメリカの支援するペルー政府に反乱を起こしたのが主に先住民であったため、戦後に彼らが樹立した政府がタワンティン-スウユの後継者を名乗るのは必然であったといえる。
反乱者たちは主にケチュア人でありペルー国外のボリビアや旧アルゼンチンに居住していたケチュア人が"帰還"させられ、教育分野ではスペイン語が新たな造語を含むケチュア語に置き換えられた。一方で、かつてのペルーの先住民の中で大きな勢力を持っていたもう1つの集団であるアイマラ人に関しては、ケチュア化の名のもとに弾圧されたのだった。
しかし、南ペルーにしても、真の意味でのケチュア化がなされることはなかった。まず、南ペルーは北ペルーと対峙していたこともあり、周辺各国からの援助を必要としていたことから依然としてスペイン語が重視されたこと。そしてもう1つの理由として皮肉なことに南ペルーから亡命したホセ-バスコンセロス-カルデロンの思想的影響があった。
元々はメキシコ人だったバスコンセロスは1917年のアメリカによるメキシコ出兵を機にペルーへと移住し、そこでバスコンセロスは人種の混交によってこそ理想の人類である宇宙人種が誕生するとして南米各国での白人系と先住民の対立に終止符を打ち、アメリカに対抗しようとしたが、親米政権に危険視された結果として先住民による反乱に加わるも、戦後の行き過ぎたケチュア化に反発し、移民たちが作り上げ、ついにはかつて彼らを弾圧していたアルゼンチンを滅ぼすに至ったパタゴニア執政府へと亡命した。
第二次世界大戦中にバスコンセロスの思想は行き過ぎたまでの白人化を推し進めたアルゼンチンに対する対抗プロパガンダとして広く知られており、またパタゴニアでは主にイタリア王国から亡命した人類の革新を求めた新たな芸術運動である未来派が大きな影響を持っていたためバスコンセロスの思想は受け入れられ、同じく同時期にブラジルでも哲学者ジルベルト-デ-メロ-フレイレの影響により混血を肯定的にとらえる人種的民主主義論が主流となっていたこともあり、そうした潮流は非アメリカ勢力圏の南米各国へと広まることになる。
しかし、それはかつては受け入れられたであろう南ペルーの民族主義的政策が同盟諸国から拒絶されることを意味しており南ペルーは慎重に行動する必要を迫られた。
こうして、内部に様々な問題を掲げた南北両ペルーの取れる行動は双方を非難することだけであり、こうして対立は激化していくことになる。現在でも南北ペルー両国の間では軍事衝突が相次いでおり、国家的アイデンティの変質もありもはや一つの国家として統一は難しいのではないかとの見方が21世紀現在では主流となっている。
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