5.手紙


吾妻由衣 様


 とても緊張しています。もう何度書き直したかわかりません。もし読みにくかったら申し訳ありません。

 

 吾妻さんは私と初めて会った時の事を憶えていますか? 私は吾妻由衣という人間を初めて見た時の事を鮮烈に憶えています。決して大袈裟ではありません。

 小学一年生の頃に撮った初めてのクラス集合写真。あなたは私の斜め前に居ました。私の目には、あなたが誰よりも輝いて見えて、とても美しく、綺麗に見えました。

 小学一年生にして、私はあなたに一目惚れをしてしまいました。

 以降、私はあなたの事をばかりを見て、或いは考えるようになりました。

 授業を受けている時、休み時間の時、友達と遊んでいる時、学年が上がってクラスが離れ離れになっても、中学に上がって成長した姿を見ても、あなたの事ばかりを想っていました。

 ただ、当時の私には浅ましいプライドがあって、誰かにあなたを好きだという事を胸を張って言う事が出来ませんでした。おこがましかったことですが、好きな人を聞かれた時は、他の方を好きだいう嘘を吐いてしまった事もありました。嫌な記憶です。

 

 中学最後の時、覚えていてくれていますか?

 情けなく、かっこ悪い告白でした。

 けれど、私はあなたをこの先も好きで居続けると言いました。

 その言葉は、今も尚、変わりません。

 

 私は吾妻由衣が好きです。

 誰よりも。

 誰よりもあなたを愛しています。


 本当は同窓会に行くのが怖かった。

 あなたに嫌われていたらとか、あなたが私に向ける目に色が無ければどうしようとか。


 私の恋心は、本当は思春期特有の一過性のものだったのではないのか、と。


 違いました。

 違ったのです。


 あなたが誰と仲良く、楽しそうに会話をしていても、誰かの手に触れていても、吉田良明という人間に好意を向けていないと分かった時でも。

 私はあなたが愛おしくて堪らなかった。

 あなたが笑うたびに、楽しい話や辛い話をしている時も、好きで好きで仕方なかった。

 気が付けば何度も目で追っていた。

 誰よりも、あなたが輝いて見えた。


 でも、私はあなたが幸せであればそれでいいと、そうも思ってしまった。

 同時に、幸せでいてほしかったと図々しくも思ってしまいました。


 今、私はあなたの何になれているのかは書いている今ではわかりません。

 思い出すのも嫌なくらい傷付けているのかもしれません。

 男なんてろくでもないなんて思っているのかもしれません。

 確かに、ろくでもない人は私を含めて沢山居ます。救いようのない人だって居ます。

 でも、それ以上に愛に溢れている人は沢山居ます。本当にかっこいい人は沢山居るんです。

 こんな事、あなたを傷付けた人間が言う事ではないのは重々承知してます。僕なんかがわかった風に語るなんて許せないかもしれませんが、それでも言わせてください。


 断言します。

 吾妻さん、あなたは絶対に幸せになります。

 あなたの求めている幸せは必ず手に入ります。


 だから、だからどうか、もっと自分の中の心の声を聞いてあげてください。私は、あなたが辛そうにしているのは見たくない、想像したくない。


 笑ってください。

 笑顔です。

 笑えないって時は、両手の人差し指で口の端を吊り上げるんです。


 私はあなたの笑った顔がとても好きです。

 はにかんだ時も、面白可笑しくお腹を抱えている時も、口元を隠して小さく笑っている時も、どれもどれも大好きです。


 願わくば、そんな風に想ってくれる方と添い遂げてくれるよう、私はあなたを想い続けます。


 吾妻由衣さん。

 あなたを好きになれてよかったです。

 あなたを愛せた事は、誇れることなんて大して多くない私の人生にとって、かけがえのない財産です。


 あなたがこの先も笑顔で居られるよう、幸せであれるよう、それだけを祈り、あなたを想い続けます。


吉田良明 


 

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