第六の旋律:記憶の合わせ鏡

焚き火の音が静かに響く、深夜の庭。

安藤は一人、古びたギターを膝に乗せ、弦をゆっくりとつま弾いていた。

夜風が吹かず、空気はやけに重たい。

何かが変わろうとしている、そんな感覚があった。

指が自然に動き出し、旋律を紡ぐ。

頭に浮かんでいるのは、娘たちと過ごした日々の断片。

──あの日の笑い声。

──夢を語る瞳。

──離れていった背中。

そのすべてが音へと変わり、空気を震わせる。

すると、足元に何かが走るような感覚があった。

視界の端で、地面に描かれる模様。光が浮かび、空気が裂けるような音がする。

「……これは、まさか──」

ギターの最後の一音が響いた瞬間、目の前の空間が割れた。

そこに広がっていたのは、灰色の大地、風のない空、音を忘れた世界。

──音のない世界に、音を連れてやってきた者。

それが安藤だった。

彼の存在は、この世界にとって異質な“記憶”。

彼の奏でる旋律が、世界に眠る音の記憶を呼び起こす“鍵”となる。

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