第三の旋律:別れの和音
音楽は、彼と彼女を繋げた。
安藤の妻、紗月(さつき)はパーカッション奏者だった。芯の強い努力家で、自らの手で道を切り拓いてきた女性だった。音楽で出会い、音楽で支え合ってきた二人は、最初から分かり合えていたように思えた。
だが、結婚して十年が過ぎた頃から、すれ違いが生じ始めた。
それは音楽性の違いではなかった。むしろ、音に対する情熱が同じだったからこそ、家庭を支えるという現実との摩擦が大きくなっていった。
紗月には背負わねばならないものがあった。
彼女の実家──村上家は由緒ある旧家であり、音楽とは無縁の家系だった。
彼女が音楽の道に進んだこと自体が、父にとっては「裏切り」だった。
親子の確執。家の期待。母としての重責。
そのすべてが、少しずつ彼女の心を蝕んでいった。
それでも、安藤との関係が険悪になったことは一度もない。
ただ、静かに決めただけだった。
「別々の道を歩こう」と。
彼女は荷物をまとめ、娘たちを連れて家を出ていった。
「あなたは、音を信じて。私は、子どもたちと……」
その言葉だけを残して。
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