第2話 焼け焦げた城壁
ひどい有様だ...!
城を出るとあたりは焼けた家の跡、負傷した兵士、ぼろぼろの城壁など、魔族によって荒らされたと思われる形跡がいくつもあった。
「あの...!転生者様ですか...?」
「えーと...はい、どうしましたか?」
話しかけてきたのは赤い眼をした少女だった。
「昨日の崩落から教会の子供たちが見つからなくて......捜索に手を貸してくれませんか...?」
「なっ、それは大変だ、すぐ手伝います」
少女の話によると昨日の夜から子供たちの姿を見た人はおらず、僧侶は病気で寝込んでいたため、子供たちがいなくなったことに気づいていなかったようだった。
こういう時の子供達は大体無茶をする。今は状況を察するに、僧侶の病気を治すための薬を探しに行った、というところだろう。
「すみません、このあたりで薬などが調達できるところはありますか?」
傍にいた老人に尋ねると、あっちのほうに薬屋がある、と指で方向を教えてもらった。
◇
少し歩くと植物の絵が描かれた看板があった。
「ここが薬屋だろう」
直感でそう感じたが、目の前には廃墟しかなかった。
まさか、この中に取り残されたか...!
すぐさま中に入ると土煙がすごく、目を開けていられないほどだった。
「おい!誰かいるか?」
「......だよ、ここだよ、ゴホッ!」
子供たちの声が聞こえ安堵した。
「今助けるからな、安心してくれ」
土煙が収まってきたので目を開けると、子供たちは廃墟の二階部分に取り残されていた。飛び降りてもらうには少々高すぎる設計で、自分の脚力では届かない絶妙な高さだった。どうするべきか。
(「この紙に絵を描き、あなたの魔力を込めると想像通りのものを生み出すことができます」)
あの奇妙な男はそう言っていたな。
俺はあの時もらった紙、
あとは魔力を込め、強くイメージすれば...!
魔力紙が光始め、梯子が形成されていく。
無事子供たちの救助は完了し、子供たちが見つけた薬も回収することができた。
◇
広場に戻ると先ほどの少女が子供たちを泣きながら叱っていた。
さっそく転生者らしい人助けをできたかな、と少し浮かれていると少女がこちらのほうへ歩いてきた。
「本当にありがとうございました」
「いえいえ、できることをしたまでだよ」
「あの...いまから転生者様の歓迎会をしようと思っているのですが、来てくださいませんか?」
「それは...喜んでいかせてもらおうかな」
街の人たちは気さくな人ばかりで、酔っぱらっている様子の人も多かった。
さっきの子供達も走り回って遊んでいた。
「転生者様は勇者みたいだな」
「ほんとほんと、よく見たらかっこいい顔じゃない?」
うっ、みんな酒の匂いがする...
「みなさん、転生者様はお疲れのようですよ、そのへんにしといてください」
少女に助けられ、少し離れたところに避難した。
「すみません、街もこんなですから、みんな酔いで忘れようとしちゃうんです。なんて、この世界に来たばかりの転生者様にする話ではないですよね」
ウエダでいいよ、というと少女はウエダ様と繰り返した。
「いつからこんなことに?」
「この町が襲われたのは先月ですが、国全体の支配がはじまったのは八年くらい前だったと思います」
少女はバッグから地図を取り出して説明を始めた。
「ジルド王国は五つの地域に分かれています。東、南、西、北、そしてこの中央区が順々に攻め落とされました」
俺は王から聞いていた勇者の話を思い出し、少女に聞いてみることにした。
「そういえば先月、勇者が現れてそいつが寝返ったって聞いたんだが...」
少女の顔に激しい怒りが浮かび、俺は反射的に目をそらしてしまった。
「...あの者は絶対に許せません。この中央区よりずっと北にある私の故郷はあの者に跡形もなく葬り去られました」
「すまない、あまり聞くべきではない話だったな」
「...いえ、ウエダ様には何の責任もありません。私たちも無関係の方々を巻き込んでしまっているので、そういったことが起こってしまうのも無理はないです。しかし...あの...あの勇者だけは話が変わってきます。全地域を滅ぼしたうえに、私の、私の家族までも奪っていきました、絶対に...許せないっ!」
少女が泣きながら机に突っ伏しているのを、ただ見守ることしかできなかった。
想像以上にひどい話に、俺は驚いていた。そして広場で笑いながら話している彼らを見て、この国をなんとか助けたい、と思うようになっていた。
泣き止んだ少女が立ち上がり俺の正面に座った。
「ウエダ様、折り入ってお願いがあります」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます