その世界、興させてください!

屈斜路ペペ

第1話 設計士、召喚

 目の前の光が消え、自分が薄暗い部屋に立っていることに気づく。


 「…エダ様、ウエダ様!よくぞお越しくださいました」


 背の低い老人に強く手を握られ、意識が戻ってくる。

 はっとして、自分の状況を思い出した。俺は死んだのだ。

 前世は建築関係の仕事に勤めていたが、仕事中の事故で命を落としてしまった。

 「どうぞ、こちらにおいでください」


 老人に連れられ、俺は中世風の衣装に着替えさせられた。

 どうやらこの老人は案内役のようで、様々な話を聞き出すことができた。

 俺が召喚されたこの場所はジルド王国の中心にある王城ということ、そしてこの国は魔族に支配されてしまい、その対抗手段として月に一度、異世界からの転生者を召喚しているということを聞けた。


 「その…転生者、とやらは私一人だけですか?」

 

 この質問をしたのは間違いだったか。老人は苦い顔をした。

 

 「実のところ、先月までの儀式では複数の転生者を召喚していたんですが…、その中に一人に最強格のスキル、<勇者>のスキルを持つ方がいたんです」


 「へぇ、勇者ですか」


 「はい、その方ははじめこそ一つの魔族集落を一日で片づける、ひとりで群れの強襲を防ぎきる、という偉業を成し遂げていたのですが、いつしか魔族側に寝返り、この中央地区を攻め落としたのです」


 「え、なぜそんなことを?」


 「理由までは何とも…、ですが彼が確かな悪意をもって行動し、私たちを滅ぼそうとしているのは確かです」


 話をしながら歩いていると、先ほどの部屋とはまた違った意味で薄暗い部屋に連れてこられた。不気味な部屋だ。

 中には占い師のような奇妙な格好をした男がいた。


 「では、これよりウエダ様の鑑定に移りたいと思います。ウエダ様、この者の手をお取りください」


 男に手を差し出すと、舐め回すかのようにじっくりと観察された。


 「あなたのスキルは<設計士>ですね」


 「設計士…ですか」


 男は異様な雰囲気を纏う紙を机の上に出すと、なにかの絵を描き始めた。


 「この紙に絵を描き、あなたの魔力を込めると想像通りのものを生み出すことができます、ほらっやってみてください」


 椅子が描かれた絵を持ち魔力を込めると、目の前に本物の椅子が現れた。


 「なっ、こんなことが...?」


 俺は驚きを隠せなかった。

 こんな力があれば前世の仕事がどれだけ楽だったか。


 「いまはまだ小規模のものしか生み出せないと思いますが、スキルレベルを上げていけばもっと大きなものにも挑戦できると思いますよ」


 「なるほど、ありがとうございます」


 鑑定を終えた俺は王の間に案内された。

 さびれた扉を開けると、王が待っているとは思えないほど荒れ果てた空間が広がっていた。


 「おぉ!そなたがウエダ殿だな」


 ――王は驚くほどにやせ細っていた。

 老人の話を聞いてこの国が危険な状況であることはわかっていたが、国の長である王までもがこのような姿だとは思っていなかった。


 「本当は食事などを用意してもてなしたいところなのだが......少々そういうわけにもいかんくてな。早速で悪いのだが、そなたに頼みがある」


 「...なんでしょうか」


 「見ての通りこの国は滅びへ向かっている。そこで、そなたには王国の復興をお願いしたいのだ」


 「え、でも私のスキルは<設計士>ですよ...?しかも<勇者>が寝返っているなら、なおさら私にできることなんて...」


 「すまないなウエダ殿、いまワシらはお願いすることしかできないのだ。<勇者>に寝返られた今だからこそ、そなたらの世界の者にしか頼れんのだ」


 ここに来てから間もないのだが、状況の深刻さだけはだれでも理解できるほどだ。

 一度は死んだはずのこの身、世界を救うヒーローとして新しい人生を歩んでみても面白いかもしれないな。

 どのみち、断る理由などないのだが。


「わかりました、その復興、私にやらせてください」


「おお、そうか、恩に着る...!」


 こうして俺の王国復興が始まった。



 









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