第32話 巡り合わせ

「では、皆の衆。すぐにでもハンナお嬢様達を助けに行くためにデグラスの城に向かうぞ。」

村長は村人に宣言した。

「我らがリテを守ってくれたハンナお嬢様を助けるぞー!」

「おー!」

村人の一人が叫ぶと皆も賛同した。村人は各々、武装していてやる気満々だ。

「だが、一つ言っておくが、結界を張りながら行くのだが、統率できる部隊経験者がおらんのだ。城の近くまで行ってそこから歩いて城へ乗り込むぞ。」

村長の言葉に若干、不安に思う者も居た。

「わし等は歩くのも遅いし大丈夫かのう。」

「そうじゃな。けれど結界を解くと見つかってしまって苦労が水の泡じゃ。」

「なるべく、城には近づく様にする。村人が乗れる分の馬も調達出来たんじゃ。ここは皆で頑張るぞ。」

村長は気弱になっている村人を励ました。だが、不安なのは村長も同じだった。

「お父様。とりあえず、私が城の周りなどを透し能力で見てみます。今、未来を見てみようとしてるのですが、なぜが真っ黒なんです。どういう事なのでしょうか。」

リテが皇帝の動きなどを予知しようとするが暗闇の様なものしか見えない。

「何?暗闇だと?それはまずいな。何かよくない事が起こる前兆かもしれんな。」

村長は顎髭を触って考えた。

「よくない前兆とはどういう事なのでしょう?」

「村に居た若い者で、未来を予知できる者がおったのだが、その者がある日私に真っ暗な闇が見えると言って来た。私は何か体調でも優れないのではないかと思っておったがその次の日にエフェが亡くなった事を知らされたんじゃ。もしかしたらその若者が言っていた暗闇と何か関係があるのかもしれないな。」

その話を聞いて益々、皆の不安が大きくなった。それから、誰一人話す者も居なくなりシーンと静まり返ってしまった。


「村長さん!!ただいま戻りました!!」

その静寂をぶち壊すかの様にエクラの元気な声が響き渡った。

「エクラさん!!」

村長は驚きすぎて後ろに倒れそうになった。

「皆さん。私は戻れましたが、ただ、ハンナお嬢様とサーブルさんはまだ城に残っております。」

「ああ、リテからサーブルさんが危ないと聞いてこれから村人で助けに行こうと思っていた所じゃ。」

「ああ、リテ様…。またお会いできてエクラは嬉しいです。」

エクラはリテの元へ駆け寄った。

「エクラ。私もよ。この余韻に浸りたいけど直ぐにハンナお嬢様を助けに行かないと。」

「でもここから城まではどの様に向かうのですか?」

エクラが心配そうに聞いた。

「馬じゃ。ハンナお嬢様のお姉様達が資金を援助してくれたお陰で馬が買えたのじゃ。これで城まで向かう。村人全員で結界を張れば妖術使いにも見抜けないから安全じゃ。ただ、統率できる者がおらんから、城の近くからは歩いて行くことになる。まあ皆、年よりだから不安もあるがな。」

村長は苦笑いを浮かべていた。


「その、統率する役目、私にやらせてもらえないでしょうか?」

声のした方を見るとそこにはエトワールが立っていた。

「エ、エフェ…」

その姿は若き日のエフェにそっくりだった。

「初めまして。お爺様。私はエトワールと申します。お会い出来て嬉しいです。」

エトワールは深くお辞儀をした。村人はその気品漂う凛々しい姿に見とれてしまった。

「エフェちゃんが戻って来たみたいじゃ。」

村人の一人が呟いた。その言葉にエトワールは反応した。

「エフェとは私のお母様の事ですね。私を産んですぐに亡くなったと聞いてます。ここに戻って来れた事、お母様が生きておられたらどんなに嬉しかったでしょうか。」

「そうか。それはエトワールも寂しかったな。でも今、こうやって会えた事はとても嬉しい。わしは生きててよかった。」

ハンナの両親も自分の事の様に思いながら涙が溢れそうになったと同時に、デグラス皇帝が憎いと思った。

「ところで、先ほどの話に戻りますが、何頭もの馬に乗って城に行く時の統率なのですが、私に任せてもらえないでしょうか?小さい頃から騎士団との訓練も受けておりますし、ある程度の知識もありますので。」

「ああ!もちろんだとも。エトワールならば任せられるよ!」

村長は元気に返事をした。

「よかった。私もハンナお嬢様には助けられたので何とかしてお返しがしたいのです。」

「ハンナお嬢様に助けられたという事は、何か怪我か病気でもなさったのか?」

村長はエトワールの身体を見回した。

「実は、皇帝により私は血を抜かれていたのです。恐らく、薬か何かで眠らされてそのまま半年間も寝たきりの状態でした。」

村人はその話にどよめいた。

「何だと、皇帝はエトワールの血は飲んだのか?」

村長が険しい顔になった。

「それはわかりません。けれど相当の量を抜かれてたみたいです。」

「もし、エトワールの血を皇帝が飲んだらどうなるのですか?」

リテが不安そうに聞いて来た。

「皇帝はこの村の若い衆の血も飲んでおる。もうそれなりの魔力は持っているはずだ。そこにエトワールの血を飲んだらかなりの魔力になるだろう。エフェは魔力がワシよりも強かったからな。本当にどこまでも強欲な奴じゃ。」

「それならば、尚更ハンナお嬢様を早く助けに行かなくてはなりませんね。」

村長の話を聞いたエトワールは、自分が皇帝の欲の為に生まれて来たのだと分かった。父親らしい事は何もせずに居た皇帝を思い出すと怒りがこみ上げて来た。


「では、日が昇る頃に出発しましょう。サーブル達も心配ですので。」

エトワールは村人に伝えた。


村長は村人も心強い味方が現れて心強かった。

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