第31話 目的が分からない

「コット。ハンナは今、どこに居るのだ?」

皇帝はいつもに増して機嫌が悪い。

「今、やってるわ。けれどおかしいの。」

「何がだ。」

「ハンナの気配が全くしない。まるであの老いの村に居る時の様だわ。」

コットのその言葉を聞いて皇帝はハッと気づいた。

「何だと!?一体何がどうなってるんだ!?」

皇帝の怒りが頂点に来た時、部屋の扉をノックする音が聞こえた。

「何の用だ!?今、忙しいんだ!」

皇帝はイライラして答えた。

「あっ。じゃあまた別の日に出直しまーす。」

その声はロスタルの声だった。

「ロスタル侯爵か?ちょっと待て!」

皇帝は叫んだ。

「はーい。そうですけど。入ってもいいですかあ?」

相変わらずとぼけた感じで居て何を考えてるか分からない。ロスタルはニコニコしながら部屋に入って来た。

「ロスタル侯爵。サーブルをあんな目に合わせたのは君だな?」

「あ、分かっちゃった?」

「あんな強い魔法を使えるのはロスタル侯爵位だからな。」

「それはどうも。」

気を遣うのが苦手なコットは二人の不穏な空気を察して気が重くなった。

「ところで、アンベスの妻をどこへやったのかな?」

「ハンナ妃の事でしょうか?」

「ああ、そうだ。大事な妃なんで早く返して欲しいのだが。」

「ええ、もちろんです。お返ししますよ。サーブルが連れ出そうとしてましたので僕が助けてあげました。」

「それはそれは。サーブルの奴、勝手な真似をして、いつからあんな男になったのか。本当に嘆かわしい。」

「サーブルはどうするおつもりなのですか?」

ロスタルは興味本位で聞いてみた。

「サーブルは処刑にする。あと一人、勝手な真似をした騎士も一緒に。国民にはエトワール皇子を殺害した犯人として処刑すると伝えてある。国民は皆、悪人は滅びるべきだっと大喜びだ。」

皇帝は虫を殺すかの様な感じで話していた。


「そうですか。では、処刑が終わった頃にでもハンナ妃をお連れします。」

「なぜ、今ではダメなのじゃ。ハンナにも悪人が処刑するところを見せてあげねばいけないのに。」

皇帝は指でトントンと肘掛を叩いた。

「ハンナ妃はお疲れの様です。死んだように寝てるので家のメイド達が見てくれてます。起きたら送りますよ。」

ロスタルはそう言うと部屋を出て行った。


「ロスタル…何が目的なのだ。やはりあいつは…そうなのか。」

皇帝はロスタルを疑っている。

「何でロスタル侯爵がハンナの事を匿うの!?信じられないんだけど。」

コットはプリプリしている。

「ロスタルの奴、俺が何も気づいてないとでも思っているのか?まあ、あいつも不死鳥の力を狙ってるのか…。何としてでもハンナを取り戻さなければ。」

皇帝はそう言うと兵士を呼び出した。

「コット、エトワールから採取した血液を呑むぞ。術をかけてくれ。」

「え!?今から?まさか、ロスタル侯爵と戦うつもりなの?」

「もしかしたら戦う事になるかもしれないか飲んでおくのだ。」

皇帝はそう言って魔力を持つ為の儀式を行う準備を始めた。コットは恐怖で震え始めた。皇帝がエトワール皇子の魔力を持てば化け物が完成されるのが分かって居たからだ。

「ついに来たのね、私も気を付けなければ。」

コットはそう言うと皇帝に続き儀式の準備を始めた。




ロスタルが皇帝の部屋の外に出るとアンベスが立っていた。

「ロスタル侯爵がハンナを匿っているのですか?早く戻して欲しいのだが。」

アンベスがロスタルに近づいた。

「あー、うん。でもアンベス皇子はあんなに嫌がってたじゃない。別にいいでしょ。」

「いや、でもあれは私の妻なので返して下さい。」

アンベスは反抗的な態度でロスタルに向かった。

「何?何?あんな美人になっちゃったから惜しくなっちゃった?あのさあ、一つ言っていい?」

「な、なんだ!?」

「僕のお陰でコットと仲良しが出来たでしょ?ハンナという妻が居ながらさあ。それでそのハンナが綺麗になったからって寝返る様な男、ハッキリ言ってモテないよ。僕、あの時、コットがハンナを血眼で探すのが嫌でさ、それを中断させたくてちょっとだけコットを誘惑したらあの女、本気になって。まあ、でもアンベス皇子のお役に立てたなら良かったのかな。」

ロスタルはアンベスを蔑む様な目で見て肩をポンポンと叩いた。アンベスは怒りに任せてロスタルに向かって拳を振り上げた。

「おっと。僕はコットの事抱いてないから。悪いけどあれ抱ける程、悪趣味じゃないんで。」

そう言うと指先でアンベスのおでこを指差した。その瞬間、アンベスは十メートルほど吹き飛んだ。

「じゃあね。また。」

伸びてるアンベスにロスタルはそう言うと城を出て行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る