第30話 腹の内が見えない奴
「う…うん……」
ハンナが目を覚ました。頭は割れそうに痛く体に力も入らない。
「お目覚めかい?余りにも起きないから死んでしまったのかと思ったよ。」
ロスタル侯爵がハンナを見ながらニコニコしていた。
「ロスタル侯爵…。ここはどこなんです!?貴方の望みは一体何なのでしょうか?」
ハンナは侯爵を睨んだ。
「そんな怖い顔すると折角の美人が台無しだよ。ここは僕の家だよ。」
ハンナはロスタル侯爵の的を得ない様な会話が本当に苦手だ。
「どうでもいい話しかないのなら、私は帰ります。」
そう言ってハンナは立ち上がった。
「おっとそれはダメ。」
ロスタル侯爵はハンナの手を引っ張った。ハンナはいい加減、頭に来た。
「本当に迷惑です。ハッキリ言って貴方と同じ部屋の空気を吸うのも嫌なんです。」
ハンナの態度に少し驚いたロスタル侯爵はハンナの手を離した。
「ねえ、僕の事好きじゃないの?」
その質問にハンナはまたまた切れた。
「そういうのが嫌なんです。誰でも皆、自分の事を好きだとか思うの止めてください。」
流石にここまで言えばロスタル侯爵も引き下がるだろうと思った。
「プッ!アハハハハ!」
「何がおかしいのですか!?」
ハンナは声を荒げた。
「やっぱり、不死鳥の力は凄いんだね。この僕の呼び寄せの魔法がまるで効いてないや。それどころか嫌われてる。」
ロスタル侯爵は真面目な顔をして言った。
「どういう事ですか?」
ハンナは冷たく聞いた。
「僕ね、どうしても尾が紫色の不死鳥を見つけたいんだ。僕がいくら呼び寄せの魔法を使っても寄って来るのは白い不死鳥なんだよね。調べてみたらどうやら君が居ないとダメみたいなんだ。」
ロスタル侯爵は頬杖を付きながらハンナに話した。ハンナは尾が紫色の不死鳥の事をなぜこの男が知っているのか気味が悪くなった。
「貴方は私達にとって敵なのですか?味方なのですか?その不死鳥をどうしようというのですか?」
ハンナは眉をひそめた。
「さあ。敵だと思えば敵だし、味方だと思えば味方だよ。なぜその不死鳥に会いたいかは秘密。」
またロスタル侯爵の気持ち悪い言い方だ。ハンナは益々、不愉快になった。
「では敵だという事で。私はサーブルの所に行きますので。金輪際、私に関わらないで下さい。」
ハンナは立ち上がり部屋を出ようとした。
「今は行かない方がいいよ。サーブルは皇帝に見つかって牢に入ってるかもしれないし、君も何されるか分からないよ。皇帝は君の血を呑んで不死鳥の力を手に入れたいんだから。」
ハンナはロスタルに詰め寄った。
「サーブルは見つかって捕らえられてるの?皇帝なんかに見つかったら処刑されるかもしれないのに。」
ハンナは顔が青ざめた。自分を助けに来てくれたばかりにそんな事になってしまうなんて胸が苦しく不安が押し寄せた。
「君はサーブルが好きなの?」
ロスタル侯爵がハンナに聞いた。
「好きとは何かよく分かりませんが、私にとってサーブルもエクラも家族も皆、大切な人です。」
ハンナは睨みながら答えた。
「ハンナお嬢様。君はまだ男も恋愛も知らない様だね。」
ロスタル侯爵は恋愛に無知なハンナに少し呆れ気味だった。
「あなたには関係のない事です。」
素っ気ないハンナにロスタル侯爵は続けた。
「まあサーブルは悪運が強い奴だからきっと大丈夫だよ。それより、ハンナ嬢、君を皇帝の元へ行かせるわけにはいかないんだよ。ごめんね。手荒な真似はしたくないから、少し寝ててくれたら僕、助かるな。」
「何を言ってるん…です…か…」
ロスタル侯爵はハンナに魔法をかけて眠らせた。
「さあ、君にはこれから役に立ってもらわないといけないからね。」
そう言って仮面の様な笑顔でハンナの手の甲にキスをした。
「これから皇帝の所に挨拶でも行きますか。皇帝にも僕の願いを叶えて貰わなくちゃいけないからね。」
ロスタル侯爵はハンナに向かって何やら呪文を唱えた。すると大きなシャボン玉の様な膜がハンナを覆った。
「この中で大人しく寝ててね子猫ちゃん。」
部屋の明かりを消してロスタル侯爵は出て行った。
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