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あの体育の日以来、私は杉本さんをどうしても意識してしまい、姿を見かけるたびにあの場面が頭をよぎり、昨日もしたんだろうかとか、どんな格好でしたんだろうかなどと、そんなことばかり考えるようになりました。そして、杉本さんが席を立つと、まさか我慢できずにどこかでやりに行ったのだろうかなどと、何でもそのことにばかり結びつけてしまいます。
そして、私自身もあの日以降、杉本さんの自慰を思い起こしては、手が下半身へ伸びていくのを抑えることができません。宿題だけはどうにかこなしていますが、その間もまったくソワソワしてしまって、宿題が済むやいなや、早速手があそこへ伸びていく始末です。
あれから1週間がたちました。体育は週2回あるのですが、前回は雨が降っていましたので、体育館でのマット運動でした。その時も、もし杉本さんがそんなことをしたらどうしよう、やはり学級委員長として止めなければいけないのかと思い、横目でチラチラと様子をうかがっては監視を怠りませんでしたが、そんな機会はついぞ訪れず、私は安心するとともに、杉本さんの自慰が見られずにがっかりしました。
今日は晴れていますので、先週と同様、校庭で鉄棒です。またしても杉本さんはやる気がなさそうに壁にもたれて、クラスメートが鉄棒をする様子をぼんやり眺めています。私は自分の練習もそっちのけで、いつ杉本さんが股をいじりはしないかと気が気ではありません。
そうこうするうちに、杉本さんがその場にしゃがみ込んで、この前と同じように周りをうかがい始めました。私は視界に入らないように気をつけながら杉本さんを注視します。すると、やはり杉本さんは股を触り始めました。私はどうすればいいでしょうか? もちろん誰かに見つからないうちに止めるべきなのでしょうが、杉本さんの自慰を見たいもう一人の自分がそれを制止します。
オロオロするばかりで手をこまねいていると、杉本さんはさらにとんでもない行動に出ました。体操服の上からでは飽き足らないのか、今度は体操服の中に手を入れて、直接触り始めたのです。何ということをするのでしょう! しかも、前にいる生徒が異変に気がついて、何度も後ろを振り向いているではありませんか。
ほかの生徒に気づかれてしまった以上、もはや一刻の猶予もなりません。私は足早に杉本さんの元へ駆け寄りました。自分に近づいてくる足音に気づいた杉本さんは、慌てて手を引っ込めました。触っているところを見られたと思ったのでしょう、膝に顔をうずめて、じっとしたまま動かなくなりました。
「杉本さん」
私は杉本さんの隣に座って、彼女を傷つけないように優しく呼びかけました。杉本さんは駄々をこねる子供のように、うつむいたまま微動だにしません。今、彼女は何を思っているのでしょうか? 人前でこのような行為に及んでしまった後悔でしょうか? それとも、見られてしまったことに対する羞恥でしょうか? 友達もなく寄る辺のない杉本さんに私は同情しました。
「鉄棒はお嫌いですか?」
もちろんそんなことはおくびにも出さず、私は世間話でもするかのように杉本さんに話しかけました。私の演技が功を奏して、見られたわけではないと思って安心したのか、杉本さんは「はい」と蚊の鳴くような声で答えました。
「でも、できないから練習するんですよ」
杉本さんはようやく顔を上げて、真意を探るように私の顔をうかがいます。その時でした。先ほど後ろを振り向いた生徒が杉本さんの方を見て、隣の生徒とひそひそ話を始めたのです。なんとか穏便に済ませたかったのですが、まずいことになりました。杉本さんは見られてしまったことを瞬時に理解したようで、目を固く閉じて再びうつむいてしまいました。これが彼女のできる唯一の防御策なのでしょう。
「杉本さん、大丈夫ですよ」
こうなってしまっては、もう隠しても意味はありません。私は杉本さんを励まして、何とか落ち着かせようとしました。杉本さんはすっかりおびえてしまって、肩をふるわせて泣いています。なんというか弱い存在でしょう。杉本さんの命運は私が握っています。生かすも殺すも私次第です。
このままここに置いておくわけにはいきませんから、私は杉本さんを立ち上がらせて、保健室へ連れて行きました。この段になって初めて周りの生徒たちが騒ぎ始めましたが、真相を知るものは私を入れて3名だけのようです。私は2人の生徒に「このことはどうかご内密に」と、ほかの生徒には聞こえないようにくぎを刺しました。
私は杉本さんの肩を抱いて廊下を歩きました。その頃にはもう泣きやんでいましたが、杉本さんは
「もう何も心配はいりませんわ。あとはお任せください」
その時の杉本さんのうつろな目と半開きの小さな口は、小さい頃に買ってもらった着せ替え人形のようでした。自分の意思が薄弱で依存度の高い杉本さんは、なんでも私の思うままです。試しに杉本さんの肩を引き寄せて強く抱いてみましたが、何の反応も示しません。私の中で何かが目覚めました。彼女を
「放課後にお迎えに上がりますわ」
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