第30話 ヒロインの計画
リリカと友達になってから翌日の話。
日中に色々とクエストをこなし、夜にリリカとお喋りをしていた。何をするでもなく、ダラダラと話す。放課後の女子高生みたいだな、なんてぼんやりと思う。
「そういえば、アレクくんダンジョン攻略に行くんだってね」
「うん。まだ日程は決まってないけど」
昨日、リリカとのお出掛けから帰ってから聞いたダンジョン攻略の話には大層驚いた。しかもダンジョンの場所が海の中。海底ダンジョンだなんて、そんなものはゲームにも無かった。
海中では陸と違って行動が制限されるだろうし、アレクが抜擢されるのは納得。私は役立たずなのでお留守番だ。まぁ行きたいとも思わないから良いけど。
けど、暫くの間アレクと離れる事になるのは何だか変な感じ。村を出てから今まで殆ど一緒に居たし……。
「___寂しい?」
「へっ!?」
いつの間にか俯いていた顔を上げると、ニヤニヤと笑うリリカが目に入る。
「いやぁ〜、アレクが居なくなるのは寂しいのかなって。ルミナはアレク大好きだもんね?」
「別に……。寂しいっていうか、どうなるんだろなって思ってるだけだよ」
「ホントかなぁ〜?」
楽しそうに笑うリリカとは対照的に、私は口元をへの字に曲げる。リリカと仲良くなって遠慮がなくなってきたのは良いけど、その分こうやってからかわれる頻度も増えるのかな。嬉しいような、嬉しくないような……。
「でもま、寂しいかどうかは置いておいて、ちょっとの間でもアレクくんが居なくなるのは不安だよね。強いし、頼りになるし」
「まぁ、ね。
でも、いつまでもアレクに頼り切りって訳にもいかなし、いい機会かも。アレクがダンジョン攻略に行ってる間に私ももっと強くならないと」
いつかは離れるつもりなのだから、今回の件はいい機会だ。アレクが居なくてもやっていけるって所を見せれば彼の過保護も少しは落ち着くかもしれないし。うん、頑張ろう。
気合いを入れ直す私を見て、リリカは心配そうに眉を下げる。
「頑張るのはいいけど…あんまり無理しないでね?疲れて風邪でも引いたら大変だもん」
「分かってる。ありがとう」
リリカを安心させる様に笑う。無理は禁物。身体を壊したら周りにも迷惑が掛かるし、万が一体調不良の時に攻略対象と遭遇したら大ピンチだ。……体調が良くてもピンチだけど。
体調と言えば、私はともかくアレクの体調は大丈夫なんだろうか。今の所は元気そうにしているけど、ただでさえ私のクエスト攻略に付き合って貰ってる上に、優秀な彼は私以外の人にも頼りにされている。今回のダンジョン攻略がいい例だ。
アレクは結構無理しがちだし……。昔、死ぬ程勉強や鍛錬に励んでいた時も、寝る間も惜しんで動き続けていた。その頃はまだ今ほど仲良くなかったとはいえ、子供ながらに大丈夫なのかな、と心配したものだ。
今の所元気そうだし、アレクは私なんかよりも体力もあって要領もいい事は知ってるけど、何せ前代未聞の海底ダンジョンの攻略を控えているのだ。万全の状態で臨んで欲しい。
その為には暫くアレクとパーティーを組まないのが良いんだろうけど……私一人でクエストに挑むのはアレクが絶対に許さないし……。うーん、ダンジョン攻略の日まではせめてクエスト攻略は休んだ方がいいのかな……。
「どうしたの?」
頭を悩ませる私に気付き、リリカが小首を傾げる。別に隠す事でもないので、私は素直に悩み事を打ち明けた。
「確かにアレクくんの身体は心配だね」
話を聞いたリリカもうーんと頭を悩ませる。「休んでて」と言って素直に休んでくれる人ではないことが分かってるんだろう。私も休んでいるのならともかく、私が動いているのに自分一人だけ休むなんてアレクは断固として拒否する。その姿が目に浮かぶ。
かといって私は休んでばかりではいられない。もっと強くなりたいし、お世話になってる恩返しもしたいし……。というかタダ飯食らいになるのはちょっと……私の精神が耐えられない。
どうしたものか、と2人で頭を悩ませていると、突然第三の声が響いた。
「___でしたら、一日だけリフレッシュして貰うのはどうでしょう?」
「!?」
「わっ!?メリ姉!?びっくりした〜」
ヌッと現れたメリアンさんが「こんばんは、ルミナ様」と丁寧に挨拶をしてくる。いや、いつの間に!?いつから居たの!?
驚く私たちを他所に、メリアンさんは淡々と話を続ける。
「そんなにあの子の身体が心配なら、リフレッシュも兼ねてデートに誘ってみてはいかがでしょう?きっと喜ぶと思いますよ」
「デート!?」
「デート!」
“デート”という単語に吹き出す私と、目をキラキラさせるリリカ。対照的な反応を示す私たちに、メリアンさんはやはり眉一つ動かす事なく続ける。
「アレクにとって、ルミナ様とのデートは何にも勝るご褒美であり、万能薬です。一日デートすればどんなに体力が減っていても直ぐに全回復するでしょう。
それに、私どもとしても、ダンジョン攻略までに彼のモチベーションを高めておきたいので。ルミナ様とデートをすれば、ダンジョン攻略に向かう時もご機嫌でしょうし」
「………あの、もしかして後半が本音というか主目的では?」
「はい」
悪びれもせず堂々と頷くメリアンさん。潔すぎていっそ感心してしまう。
「という訳でデートしましょう。ご安心を。私もお手伝いさせて頂きます。デートプランの相談から当日のファッションの相談まで承ります」
「勢いすごいね!?」
「メリ姉、割と猪突猛進型だから……」
グイグイくるメリアンさんに驚く。クールな秘書系お姉さんかと思いきや、意外と強引だった。
「でもデートはアタシも賛成!折角だからプレゼントとかもしちゃう?『これを私だと思って持って行って』って!」
「良いですね」
「良くないよ!?」
何その恥ずかしいセリフ……!というかそもそも私はまだ“アレクとデートする”って案に賛成すらしてないんですけど!?本人の意思は!?
私の意見など初めから聞く耳持たないと言わんばかりに、リリカとメリアンは話を進めていく。
「デート内容は普通にショッピングでいいんじゃない?」
「そうね。気負わない方がルミナ様もやり易いでしょうし、ショッピングを楽しみつつ、少し高価な食事を戴く、という無難なプランが良いわ」
「プレゼントはどうしよ?ルミナからなら、アレクくんは何を貰ったって喜ぶだろうけど」
「手作りの方が喜ぶでしょうし、そうしましょう。マナリスにも協力を仰げばどうにかなるわ」
…………もう、どうにでもなれ。私は半ば無の境地で、ワイワイと私とアレクのデートプランを練る2人を見ていた。
・・・・・
「___という訳でメリアンさんに呼ばれて来ました〜。アレクさんへのプレゼント作り、このマナリスが精一杯サポートしますね!」
「…………よろしくお願いします」
どうやらアレクへのプレゼントを作るのは決定事項となったらしい。サポート役として呼ばれたマナリスさんが「任せなさい」と言わんばかりにドーンと胸を叩く。
「ダンジョン攻略に持って行くなら携帯出来る雑貨がいいですよね〜。ルミナさんは手芸出来ますか?」
「少しなら…」
前世では縁もなかった手芸だが、今世では母がそういうのが好きな影響もあってちょいちょいやっていた……というか手伝わされていた。それに、娯楽の乏しい田舎の村なので雨とかで外で遊べない日は家の中で暇を潰せる手段も限られていたし、そういう時によくやっていた。
「では何を作りましょうか?ルミナさん、ご希望はありますか?」
「そうですね……」
私がアレクにあげたいもの……。パッと思い浮かんだのは___
「ミサンガ___ですかね」
願いを込めて作るお守り、ミサンガ。アレクが無事にダンジョン攻略を終えられる様に願いを込めて作りたい。アレクなら大丈夫だとは思うけど、未知のダンジョンなんて何があるか分からないから…。
「___良いですね!折角なら、聖女の加護も込めて魔道具にしませんか?」
「え!?」
魔道具って……。そんな簡単に作れるものじゃないよね??ただのミサンガなら直ぐに作れると思うけど、魔道具にするとなればどれだけ時間が掛かるか分からない。ダンジョン攻略までに間に合わないかもしれない。
「いや……私、魔道具なんて作った事ないですし、上手く作れるかどうか……」
「大丈夫です!私が教えますから」
「マナリスは冒険者時代、優秀な僧侶で、回復や状態異常無効化の魔道具を作るのも得意でした。回復系の魔法は聖女の魔法と似ていますし、十分参考になると思いますよ」
「無理だったら普通のミサンガにすればいいよ!それでもアレクくんは絶対に喜ぶからさ」
確かに、無理そうなら普通のミサンガにすれば良いだけだ。
魔道具が作れる様になれば、将来的にそれを売って稼ぐ事も出来るし、チャレンジしてみるのもアリかもしれない。ダメで元々の精神でやってみようかな……。
____それに、もし、もしちゃんと魔道具を作れたら、ちょっとはアレクの助けになるかもしれない。
「___魔道具作成の指導、よろしくお願いします、マナリスさん!」
「はーい、お任せあれ〜」
一緒に行けない分、しっかり思いを込めて作ろう。アレクへのプレゼントを。
転生ヒロインはヤンデレ幼なじみに気付かない 沙月 @s-t-k
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