第29話 ヤンデレ幼なじみとデートのお誘い
ルミナがリリカと友達になった。
嬉しそうに報告する姿はとても可愛かったが、それ以来ルミナがリリカと一緒に居る時間が増え、アレクとしては少々面白くない。何せクエスト攻略時に付いてくる事もあるのだ。ルミナと2人っきりの時間が中々取れない。
加えて、いつ海底ダンジョンに出発する事になるか分からない。ダンジョン攻略に赴けばルミナとは暫く離れ離れになってしまう。本当は心底嫌だが、ルミナにダンジョンについて話したら「頑張ってね」と言われてしまった。彼女にそう応援されたら行くしかない。
だからせめて、それまでの間はルミナとの時間を大切に過ごそうと思っていたのに。
アレクの機嫌は日に日に悪くなる一方だった。それでもまだリリカに対して何のアクションも起こさないのは、彼女が有用な人物だからだ。
リリカの身体には魔道具が埋め込まれている。それも
とはいえ、リリカが持つ魔道具は非常に使い方が難しい。何せ一歩間違えれば敵味方関係なく魔力を吸い尽くす化け物となってしまうのだ。戦争用に開発されたものの、その使い勝手の悪さから結局宝物庫送りになった代物だ。
更に言えば、水晶の様な形をしたその魔道具は本来ならば手で持って扱う。そして人が持っていない限り、稼働する事はない。よしんば魔道具が暴走しても、直ぐに投げ捨てれば暴走を止める事が出来た。
しかし、今はリリカの身体に埋め込まれているため、常に彼女が所有している状態だ。暴走してしまえば、止める事は難しい。
十分な睡眠と栄養を摂る事で暴走は抑えられるが、それを止めてしまえばまた暴走状態に逆戻り。常に気にしておかなければならない。ちょっと体調を崩した日や怪我をした日は特に注意が必要だ。
本当は自分の意思で操れる様になるのが一番良いのだが、古代遺物《アーティファクト》の改良は難しい。何せそれらは言わば適当に回していたルービックキューブが、奇跡的に六面揃った様なもので、当時の技術力では再現性に欠ける。
何をどうして出来たのか開発者でさえよく分かっていないので、残された資料は曖昧な記述も多い。下手に弄り回せば折角揃ったルービックキューブを崩してしまう。そして崩れたルービックキューブをまた揃えられるとは限らないので、手も加えにくい。
曖昧な資料だけでは、未来の技術でも改良は難しい。もし手を加えて、貴重な文化財でもある古代の魔道具を壊してしまったら?
また、改良するにはそれだけの資源と時間が必要だ。沢山の資源と時間をかけて、改良に失敗したり、あまつさえ壊してしまったら元の子もない。だったらその分の資源を使って別の魔道具を作った方がマシだ。
そんな訳で
さて、使い勝手が悪いといっても、相手の強さも関係なく魔力を奪い取り無力化出来る【
魔法の攻撃というのはかなり厄介である。まず遠距離攻撃という所が強い。炎、水、雷などなど、属性を持つという強みもある。それ以外にも、バフやデバフといった効果を付与されると面倒くさい。だが、魔力を奪えばろくに魔法は使えず、戦力を削げる。
魔力量が少ない人間、例えばロナルドの様に物理攻撃が主体の人間相手には効果は薄いが、攻撃を物理攻撃だけに絞れるのも有難い。相手と一定の距離を保つ様に意識すれば良いし、物理攻撃を軽減する魔道具を使用するのも良い。そもそもロナルドは物理攻撃の高さでSランク認定された人間なので、大抵の騎士は彼の敵ではない。
先にリリカだけが出て【
実戦で実用するにはもっと作戦を詰める必要はあるが、いざとなればリリカを主軸として追っ手と戦う。それがアレクの考えだった。
気に食わないが、僕が居ない間はリリカの傍にいるのが一番安全かもしれない。【
ルミナも巻き込まれるかもしれないが、聖女である彼女は呪い系統の魔法に強いし、呪い耐性を上げる魔道具も身に付けいればある程度は防げるだろう。
ダンジョン攻略の間はどうしてもルミナと離れ離れになってしまう。リリカは、その間彼女を守る盾となってくれるだろう。仲良くしておいて損はない。だから仕方なく、非常に業腹ではあるが、アレクはリリカに対して何のアクションも起こさなかった。……もしリリカが男性だったら流石に許さなかっただろうが。
とはいえアレクの機嫌が悪いのは確かだった。ルミナが居ない時はあまりの不機嫌オーラに周りの人間がビクビク怯えている。あのロナルドでさえ、気安く話しかけない。
今日もクエスト攻略後、ルミナはリリカの所に行ってしまった。アレクはイライラしながらその帰りを待っている。
「ただいま」
「……おかえり」
ルミナを迎え入れる時でさえ、少々素っ気ない態度になってしまう。ルミナはそんなアレクの態度に何かを感じ取ったのか、ばつが悪そうな顔をする。
「あ、あのね、アレク」
「何?」
緊張を孕んだ声でルミナが呼ぶ。なるべく優しく応えたかったが、どうしても素っ気なくなってしまう。これではいけないと思うものの、こればっかりはどうしようもない。
___というか、リリカも少しは遠慮して欲しいものだよ。彼女にとっては初めての友達とはいえ、ルミナは僕のものなんだし。僕から奪い取る気というのなら流石に看過できない。有用な人間だから潰す気はないけれど、あまり続くようなら少し“お話”した方が良いかもしれないね。
なんて物騒な考えを巡らせていたアレクだが、次に放たれたルミナの言葉により、そんな考えはどこかへ吹っ飛んでしまう。
「___明日、一緒に出掛けない?」
「___え?」
何故か恥ずかしそうに言われた言葉に、理解が追いつかない。自分でもびっくりする位間抜けな声が出た。
「あ、予定あった?」
「いや無いけど……。急だったからびっくりして」
たとえ予定が入っていたとしてもルミナからのお誘いなら何がなんでも予定をキャンセルするが。もし明日海底ダンジョンの招集が掛かっても断固として拒否するが。突然のお誘いにアレクの脳みそは付いていけなかった。
「ごめんね、急で。でも、アレクもいつ出発するか分からないし……」
「やっと出来上がったし」とルミナは小さな声で呟いた。彼女の呟きをアレクが聞き逃す筈もなく、しっかりとその呟きを聞いたアレクは、何の事だろうと首を傾げる。気にはなるが、聞いた所で答えてくれないのは予想出来た。まぁいいか、と結論付ける。
それよりもルミナからのお誘いの方が問題だ。急に誘ってきた理由はまぁ理解出来る。しかし、そもそも何故“一緒に出掛けよう”と思い立ったのか。嬉しいが、もしかしたらダンジョン攻略に赴くアレクに喝を入れよう、とギルド職員達で計画していたのかもしれない。そうなると、デートではなく何人かでのお出掛けになる訳で……。正直、嬉しさは半減する。
まぁ、それでも行かないという選択は無いけれど。
「分かった。出掛けよう。何処に行くかは決まってるの?」
「私がちゃんと計画してるから、大丈夫」
「了解。
……ところで、明日はリリカとかも来るのかな?」
念の為確認しておこう。それならそれでどうにか2人っきりになれるように色々と考えないといけないし。
アレクが聞くと、ルミナは「うっ……」と言葉に詰まる。これはリリカ達も同伴かな。
そう思ったが、しかしルミナは心を落ち着かせる様に深呼吸をする。そして、覚悟を決めた顔でアレクを見る。
「___リリカ達は、来ないよ。アレクと2人で出掛けたい、から……」
最後の方は耳まで真っ赤になりながら、俯きがちに言った。そんな彼女を可愛いと思う間もなく、アレクは固まる。
___え?2人??僕とルミナの2人でお出掛けってそれはつまり……。
「じゃ、じゃあそういう事だから!私用事思い出したからちょっと出て来るね!!」
逃げる様にそう言ってまた部屋を出ていくルミナを止める事も追い掛ける事も出来ず、アレクはフリーズしていた。
暫くして、漸く我に返ったアレクはルミナの言葉を思い出す。そしてそれを丁寧に咀嚼して、言葉の意味を理解すると同時にこれ以上無いほどの幸福感に包まれた。少し前までの不機嫌はどこへやら。自然とニヤけてしまうほどご機嫌になった。
「よし、取り敢えず明日の服を用意しよう」
手持ちの服でも良いが、アレクはあまり服にこだわりは無い。ルミナと一緒に居る以上、それなりの服を着る様にはしているが、折角のデート、それもルミナが誘ってくれたのだ。いつもと同じという訳にはいかない。
あぁ……もう少し時間があればイチから自分で作るなり、コタローに連絡して用意して貰うなり出来たのに……。
でも仕方ないか。いつ招集がかかるか分からないからね。下手に先延ばしにしてその前に招集がかかったら最悪だ。
さて、洋服店に詳しそうなのは……メリアンかな。ロナルドの服を買ってるから、男性物が置いてある良い店を知っていそうだ。
上機嫌のまま、アレクはメリアンの元へ向かった。
____ルミナとの久しぶりのデート、楽しみだな。
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