第8話「コード保持者レイナと、次元の狭間にて」

 光のゲートをくぐった瞬間、世界が音を失った。


 重力が消えたような感覚。周囲の空間が“ヒビ割れ”たガラスのように歪み、レンたちは“次元の狭間”と呼ばれる未知の領域に投げ出されていた。


「ここ……どこ?」


 つばきがレンの手を握りながら、空中に浮かぶ破片のような足場を見下ろす。下も上もない、上下の概念が溶けた空間。


 ルカが小声で呟いた。


「この座標、存在しない……少なくとも、AR3以降の世界地図には」


 そのとき、空間の裂け目から“誰か”が現れた。


 銀髪に赤い瞳、ローブをまとった少女。年齢は見た目で十五、六歳ほどだが、その瞳には数世紀の知性が宿っていた。


「ようこそ、“次元の狭間”へ。コードX、そして兵装No.4。それと……案内人」


 彼女は、明らかにこちらの存在を把握していた。


「……誰だ?」


 レンが問うと、少女は静かに名乗った。


「私は《レイナ》。コードΛ(ラムダ)の保持者」


「コードΛ……? X以外にもそんなのがあるのか」


「当然よ。世界を再構成する権限は、複数存在する。それぞれ、異なる未来を指し示す」


 彼女は虚空に浮かんだ“端末”のようなものを指でなぞると、そこにデータが映し出された。


【コードΛ:世界無化の権限】

【目的:全システムの停止・初期状態への還元】

【対象:現世界人口すべて】


「君たちはこの世界を“維持”しようとしている。だが私は、“終わらせる”ことを選んだ」


「なぜ……そんなことを」


「この世界は欠陥だらけ。スキルに依存し、自由を失い、人間らしさを捨てている。私は、それをリセットしたい」


 その瞬間、空間が軋んだ。


 レイナの手元に、黒い槍のようなものが現れる。


「問答はここまで。コードX……あなたの存在は、私の選択の障害になる」


「……やるしかねえか」


 レンは、ステータスカードを構えた。つばきがその背に寄り添い、共鳴の輝きが再び発動する。


【共鳴スキル:零式・連鎖衝撃】

【コードリンク:警告──他コードと干渉中】


 初めての“コード同士の戦い”が、静かに始まった。


 レイナの一撃は、空間そのものを裂く。地形が崩れ、法則が反転する。スキル発動順が逆転し、時間が巻き戻るような感覚。


「ぐっ……くそ、やべえ……!」


「レン、私を信じて!」


 つばきの叫びと共に、共鳴が第二段階へと進化した。


【共鳴スキル進化:終式・相転撃】

【対象:空間構造体/コードΛ領域】


 二人が放った連携技が、レイナの領域を打ち破る。


 光と衝撃。静寂の爆発。コードΛの情報領域が崩壊し、レイナの姿が空間の奥へと消える。


 だが、声は残った。


「コードX……この戦いは始まったばかり。次は、私だけじゃないわ。コードΩ、そして……αも動く」


 その名前の意味が、レンたちにはまだ分からなかった。


 だが、確かに聞こえた。世界の奥底で、さらなるバグが目覚め始めていることを。


「レン……これ、どうなるの……?」


「どうにもなんねぇよ。けど、進むしかねぇ。“バグ”としてな」


 そして、空間の裂け目が新たに開いた。


 次の戦場への道が、レンたちの前に姿を現した──。

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