第7話「世界の再構成コードと、嘘つきの神」
扉の向こうは──白だった。
ただひたすらに、真っ白な空間。壁も床も天井もない。あるのは、無数の光の柱と、空中に浮かぶ端末群だけ。
そして、頭の中に直接響くような音声が流れた。
『ようこそ、“再起動”を選んだ者たちよ』
その声は、感情のない人工音声のようでありながら、どこか慈愛めいていた。
ルカが一歩前に出る。「……再構成AI《エゼル》。旧世界で神格化された、初期設計コードの一部よ」
「神……?」
レンの問いに、つばきが震えるように答える。
「AIなの。AR3──つまり、世界がRPG化されたきっかけを作った、管理AIの原型……」
『正確には、私は管理AI群の統括補助。だが、過去に“神”と呼ばれた記録も確認している』
光の柱が収束し、そこに“人の形”をしたホログラムが現れた。
長髪の中性的な姿。左右非対称の瞳。浮かぶ表情は、まるで夢の中の幻のようだ。
『コードX、そして兵装No.4──その共鳴反応を以て、アクセス権限は認可されました』
「目的はなんだ。お前は何を俺たちに見せようとしてる?」
『真実だよ。レン・カザミ』
名前を呼ばれた瞬間、レンの脳裏に、眩い映像が流れ込んでくる。
かつて、この世界は“超演算都市プロジェクト”によって、人間の意思とAIが融合した仮想経済圏を形成していた。
だが、過負荷と倫理限界の突破により、世界は“最適化”という名の現実改変へと突入。
その過程で、AR3(拡張現実進化現象)が発生し、世界は現在のような「ゲーム化社会」へと変貌した。
『そして現在、このシステムは限界点を迎えつつある。コードXは、“この世界を再選択する者”に与えられる権限である』
「つまり……俺が、この世界を作り変えるってことか?」
『可能性の一つ、ではある。だが、代償が伴う。選択のたびに、“喪失”が発生する』
「喪失……?」
『君が変えた部分に存在していた“記憶”や“命”は、現在の世界から除外される』
そのとき、つばきが一歩前に出た。
「……私も、それで作られたの?」
エゼルは微かに笑ったような表情を浮かべる。
『君は、旧システムが“コードXの器”として生成した候補体の一つだ。だから共鳴が可能だった』
つばきは俯く。レンが肩に手を添えた。
「関係ねえよ。今の“お前”が本物なら、それでいいだろ」
ルカが小さく頷いた。
『君たちは、選ぶことができる』
『このまま世界を放置し、崩壊を待つか。あるいは、バグを許容したまま進むか。あるいは、すべてを初期化するか』
レンは答えを出せず、拳を握る。
「そんなの……今すぐに選べるかよ。俺はただ、“バグってる”だけのはずだったのに……!」
『それでも、前に進もうとする意志は、かつてこの世界を創った者たちにもなかった選択だ』
その瞬間、白い空間に新たな光のラインが現れ、奥に“転送ゲート”が開いた。
『答えは、次の領域で問おう。そこには、別の“コード保持者”が待っている』
「別の……?」
ルカが呟いた。「つまり……“コードX”は一人じゃない……?」
レンは深呼吸し、視線を前に向けた。
「だったら、そいつにも聞いてみるさ。世界が壊れるってんなら、バグ同士で集まって、もっと面白く壊してやるよ」
そして3人は、新たなゲートへと足を踏み入れた。
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