第6話「コードX起動、そして追撃者たち」

 迷宮の深層エリアは、まるで別世界だった。


 薄青く光る床。空中を漂う演算粒子。ここは一般プレイヤーの到達不可能領域、“アクセス制限区画”。


 だが、レンが足を踏み入れた瞬間──


【例外ID認定:アクセス権限・開放】

【封印空間No.13:解除開始】


 迷宮の壁に埋め込まれていた黒いゲートが、鈍く脈動し始めた。金属のような表面が、まるで生き物のように蠢く。


「……なに、これ……」


 つばきが怯えたように問う。


 ルカは目を細めて言った。


「“禁区”の封印扉よ。本来は、AR3以前に発生した“旧世界の遺物”が眠っている空間。普通のプレイヤーには入れない」


 だが今、レンの手の中のステータスカードがそれを無効化していた。


【コードX:主権承認中】

【スキルスロット更新中……】


「……あんた、やっぱり何かを起動させてる」


 ルカの声には、焦りのようなものが滲んでいた。


 と、そのとき──


「起動信号、捕捉」

「対象:コードXおよび兵装No.4」

「即時破壊を許可──全員、突入せよ」


 機械音声と共に、上空の天井が爆ぜた。


 落下してきたのは、黒いフードと白い仮面を着けた兵士たち──5人。その背中には政府の紋章ではない“バグマーク”が刻まれていた。


「……あれ、誰?」


「《ジャッジメント部隊》。政府とは別の、“バグ狩り”専門集団よ」


 ルカが鋭く答える。


「対バグスキル、高密度干渉装置、思考阻害デバイス──レン、動けなくなる前に距離を取って!」


 だがすでに遅かった。


【スキル封鎖エリア展開中】

【コードX:一部機能停止】


 レンのステータスカードがノイズを吐き、赤く警告を出す。


 その隙をついて、兵士の一人が近づき、ショックブレードを振りかざす。


「レン!」


 つばきが飛び込んだ。その手に構えられたモーニングスターが、咆哮のようにうなりを上げ、兵士の刃を弾き飛ばす。


「触らないで……彼は、私の“共鳴者”だから!」


 瞬間──レンとつばきのステータスカードが共鳴した。


【共鳴スキルリンク成立】

【新規スキル解放:零式・連鎖衝撃】

【対象:ジャッジメント部隊】


 レンの体に、つばきのモーニングスターが電気的な紐で繋がる。


「これって……!」


「一緒に、振って!」


 二人が同時に踏み込み、レンが誘導し、つばきが振り抜く。


 空間に“バグの亀裂”が走る。

 振り下ろされた鉄球が、一人目の兵士を吹き飛ばし、衝撃が電撃となって後方の敵をまとめて貫く。


「スキル干渉……不可能……!?」


 部隊が混乱する。


 ルカが呟く。


「これが、“共鳴者”……コードXの真価か」


 残った兵士たちが撤退信号を出し、残光を残して空間から消えていった。


 静寂が戻る。


 だが、空間には確かに、変化が起きていた。


【封印空間No.13:解除完了】


 奥に広がる空間の扉が、音を立てて開いた。


 つばきがレンに寄り添いながら、問う。


「……行くの?」


「行くしかないだろ。だって、俺たちもう──“バグ”のままじゃ済まされないからな」


 ルカが一歩前に出る。


「この先にあるのは、“世界の再構成コード”かもしれない。あんたがそれに触れるなら──」


 レンは静かにうなずいた。


「触れてやるよ。バグらせてやる、この“ゲームみたいな世界”を」


 そして3人は、光の扉の向こうへと踏み出した。

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