懺悔室
やけに静かになった
たくさんの個性あふれる人々は、
みんないなくなってしまった
思い思いにそれぞれの想いを吐露し
思うがままに自分の権利を主張して
ただ気まぐれに同じ炊飯器からご飯をよそって
ただ気まぐれに靴ひもの結び方を教えて
日々はどこまでも転がっていくように思えたが
気づけば行き止まり、行き止まり
壁か傾斜の急な坂道が眼前には広がって
ここから先の道筋がどこにもないことを示している
二度目はない
限りある機会だ
手に入れられるうちに手にしないのは愚かなことだ
そのツケを支払うのは、紛うことなく己自身だ
あれだけの出会いが今後あるだろうか、(いやない)
指折り数えてみても、記憶から薄れていくばかりだ
自然に抜け落ちるものをとどめる手立てはない
靴ひもは、いつかほろりと解けてしまうものだ
どれだけ高級な接着剤で押し固めてみても
目を離した隙に、そのうちにほどける準備を進めている
ほどけた先にある利益を思い浮かべながら計画を練っている
束の間の物語も、何度も反芻すれば永遠だ
絶対に忘れてはならない、左手に爪で掻いてでも
必死に繋ぎ止めないとすぐに壊れてしまう
快い言葉にこそ懐疑的にあらねばなるまい
二度目はない、ただ一度、一度だけだ
繰り返す言葉もない、ただ一度だけ
機を逃せば、もはや打つ手はないのだ
彼の独白を狭苦しい部屋で聞いていた
それは自分自身の告白のようであった
荒れた唇に、どうにも見覚えがあった
よれたシャツに、どこか懐かしさを感じていた
できるだけ息を殺していた
誰にも聞かれたくなく、誰にも聞かせたくなかった
相手が自分自身であっても、
それは彼を追い詰めてしまうことになるからよくない
この世に存在する中で一番優しい言葉だけを吐いて
この世で一番温い白湯を口に含む
息が尽きるときまでそのままでいられれば、
もうなに一つも、憂うことなんてないはずだ
彼は気づけばここを去っていた
僕が見た彼が、果たして異なる人だったのかは確信が持てない
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