鎖国国家

「鎖国国家」という本を読んだ

鎖国の手順は至極単純で

まずは海路を断つこと

湾岸にはネズミ返しを並べ

なるたけ侵入者を遠ざけること

小さな小舟の一つも許さない

笹船の一つも許してはならない

心持ちは高尚であればあるほど良く

水平線は遠ければ遠いほど良い


次に試みるべきことは当然に陸路だ

浅はかにも地続きにしてしまった

信頼して作ってしまったつながりを、

順番に閉ざしていくこと

穴を掘り、海峡を作り出す気概で

決して傷つけたいわけではないので、

穴の中に針を撒くことはしないが

それでも境界線を明確にすることは肝要だ


最後に試みるべきことは、空に暗幕を垂らすことだ

生半可な工事では済まないだろう

国中のあらゆる技術者を招集して成し遂げねばならない

ただ、計画の完遂のためには必ず必要な手続きだ

これがなければ、子ネズミの一匹や二匹、

容易に飛来して領域を侵すだろう

重ねて言うが、何一つも立ち入りを許してはならないのだ

純粋で穢れない、生まれたままの自己だけが在るだけ

そこまでしてようやく、正しく鎖国国家は誕生する


一度閉ざしてしまえば、そうそう覆ることもない

枕はいくら高くしてもかまわない

睡眠薬をたらふく飲んで、ベッドと一体化するまで眠っても

何一つその身の安全を脅かすものはない

垂らした暗幕が、あるいは境界線の深い溝が

最後には、海岸沿いのネズミ返しが、

きっと心の安寧に寄与してくれることだろう


ただ、目的は別にある

安心安寧を得ることは、鎖国国家の真の目的ではない

他人の評価や目線に悩まされることなく、

あるべき産業に力を注ぎ、

あるべき文化を開花させ、

あるべき土壌を耕し、種をまいて

あるべき姿を目指すことが大切だ


周辺国家で何が起きようと関係ない

どのような栄華も、どのような渇きも、

ただ自分自身の価値観に沿って生きることに比べれば

鼻で笑ってしまいたいほどに些細なことだ

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