バルーンフェスティバル

朝早くに起きた、楽しみにしていた光景があったからだ

それは期待を裏切らず美しく麗しく

長く生きてきた人生をまるっと一つ肯定できるような

そんな魅力に満ち満ちている


僕は自分の体がふわふわと地を離れるのを感じる

地に足付いた生活なんて縁遠いと思っていたが、

実際に足が離れてみると、今までの当たり前に気づけるものだ

ただ高揚感に支配された頭は異常事態にも気づけず

ふわふわと浮かび上がる身体も、

魅力的な光景の一部分だと楽観視する


傍から見れば、なんと滑稽

奇妙奇天烈珍妙な生き物の踊り

どの時代の誰も思いつかなかったような、

(それは思いつく必要がなかったという但し書きが付くが)

そんな見るところのない踊りを踊っている

→つまりはいつも通りの日常だ


浮かび上がる僕に気づいている者はいなかった

それは当然、皆そのようなものを見ている余裕はなく

目の前の美しい光景をフィルムに焼き付けようとしている

レンズ越しに見る光景は、

自己解釈のフィルタをもう一枚経ることで

現物の景色よりも価値のあるものと錯覚できる


眺めれば眺めるほどに、僕は舞い上がってしまって

文字通り宙に浮かんで屋根より高く

雲より高く飛んで、風船とすれ違って

ポケットから携帯を取り出そうとして落っことした


夜に似た空の色の方が近くなっていた

誰の肺も経ていない空気は澄んでいて甘く感じられた

取り返しのつかないことをしてしまった予感はあったが

そのような自分に対する諦めの気持ちはとうの昔に知っている

いつも通りの失敗に、今更驚くこともないだろう

浮かれた時や、幸せに酔っている時の自分ほど、

何をしでかすかわからない生き物もない

平静を取り戻すまで、檻にでも閉じ込めておいた方がよい存在だ


次があれば、次の機会のために、頭の中で対策を練っておく

徐々に頭は冷えて、自己嫌悪に頭が支配される

次があれば、次の機会のために、忘れないように体に傷をつける

若い体は回復も早く、さも忘れてしまえとでもいうように

残しておきたい傷跡も打ち消してしまった

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