船はどこへ

理想ばかりを詰め込んだ船はどこをゆく

そう大きくはない体躯に

身の程知らずの夢を詰め込んで、

いつもいつまでも、一挙手一投足に

欠かさず期待を塗り重ねる


理想ばかりを詰め込んだ船はどこをゆく

空に似合わないような鬱屈とした色をして

己を恥じて、できうる限り隠すようにして

いつもいつまでも、ネジの一つに至るまで

欠かさずバーニッシュを塗り重ねる


鉄パイプをかき集めて貼り付けただけ

廃材とも呼べないような塵屑のあつまり

二束三文にもならないものを寄せ集めて

集まる人も、馴染めなかった人々の寄せ集め


それでもかろうじて動き続けるのは

つくられてしまった責任があるからだ

航路の先がいかに暗かろうとも、

残り時間にゆとりがあるうちは、

まだ見ぬ明日に期待してしまうのだ


船は衰えるばかりで、昨日より優れた点なんて一つも存在しない

身体のすべてのパーツが入れ替わっても

示し合わせたかのように、以前より劣る姿を見せる

軋む甲板、悲鳴をあげるファンネル

整備士は船を降りた、もう誰も手を付けられない

崩れ落ちながら進むような日常、

ただ、日常として肯定してはならない

紙に書いて壁に貼っておいても、

謀ったかのように視界の片隅にも残らないままだ


妙に楽観的だからこそ、余計に厄介なのだ

航路が誤っていること、船を構成する要素、

あるいは乗る人々の一人に至るまで、すべてが誤っている

だのに、当の船自身が危機感を抱かない

進む先に、安寧の港があると信じてやまない

そう信じていないと、すぐに動かなくなってしまうだろうから


いつか、月のそばを、君と歩いてみたいんだ

そのためなら、どこまでだっていけるはずさ

軋む甲板も、悲鳴をあげるファンネルも

生きているからこそ、そう思えばどうってことないさ


雨漏りばかりの毎日も

皿にたまっていく水滴を楽しむ日々だ

泥まみれの長靴も

己の責務を全う出来て本望だ

船はゆく、止まることはない、

止まる手立てなんて知らないし、知りたくもない

ただ不格好なバタ足で、体を前に進めることだけを考えている

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