大層な岩
大きな岩がある
根元からしっかりと地面に埋まっていて、
どんなに揺らしてもビクともしないことが
ただひと目見るだけで誰にでも理解できるような
そんな大層な岩だ
その前に座り込んで、今日で九日になる
いまだに、その岩を動かすための手立ては、
ヒントの一つも見つからないままだ
僕には僕のできることがあって、
それは誰にも勝るような有利であるはずなのに
その手立てが幾分も役に立たないような、無為な試み
押してダメなら引いてみよと誰かから助言をいただき、
その言葉通りに引いてみても
岩はまったくもって動こうとせず、
地面に隠れた大部分は、僕の与り知らぬところにある
長く見ているうちに、その岩の特性というのもわかってくる
岩は二十数年前からここにあって、雨風にさらされてきた
そのたびに岩には土砂がまとわりついて、
その結びつきを強固なものにしていっている
どんな有利もたったひとつの思い込みには及ばない
積み重ねてきた年月の数には、どうしたって抗うことはできない
僕は岩に安心感を覚えている
いつまでも安心して、もたれかかっていられる場所で
一生を過ごしていたい
その岩が、もたれかかる僕に対して牙をむかないだけでも
僕は満足していなければならない
一緒に過ごした時間の多さで物事を語るには
あまりにも分が悪すぎる
岩にとっての安楽な場所はこの場所であって
決して僕の家の狭苦しい軒先ではない
どれだけわがままを積み重ねようとも、
それ自体どうにも変えられない事実なのだ
しばらく、岩を動かす試みも諦めてしまっている
個人には変えられない物事を前にして、無力感に苛まれている
僕は他の場所を探すべきなのかもしれない
ただ、旅を続ける生涯にあっては、
旅を続けざるを得ない性分を抱えてしまっては、
この岩と同じような生き方をすることはどうにもできないのだ
見解を二転三転している
居所を転々としている
姿かたちも所かまわず変えてしまって
慣れ親しんだ顔もできやしない
ここを離れる時分ももう近い
せめて別れの言葉だけはきれいにしておきたい
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