炭坑探査

炭鉱夫の乏しい報告を聞きながら、

帳簿にやりくり、今後の予定を書きつづる

塗りつぶしのない四角形は

産出量に対してあまりにも適切で

かろうじて月をまたぐことを許されるような

そんな収支をまとめてホッと一息つく


また掘削するルートを変えねばなるまい

Aルートはとうに尽き、Bルートは落盤した

Cルートには期待を裏切られ、Dルートは沈黙している

得られる鉱石がなければ、

じきにこの街の産業は止まってしまう

この炭坑だけが生命線なのだ

ただ、もはやそこかしこに穴が開いてガタがきている

いつすべて崩落してしまうかもわからない状態だ

新しいルートを開拓しようにも、

もはやあてがないのが正直なところだ


来月を無事に迎え、

未来永劫までは望まない、

少しでも長く生きながらえるように

残された時間で対策を考えなくてはならない

半ばあきらめ気味な長老たちと

半ば嘲笑気味に事態を見守る若者たち

限りある鉱石を費やして、時機を見極めて

少しでも節約されるように

筋肉痛に悩まされながら考えている


彼らの相手をするのも一苦労だ

余計な心労は増やしてくれるな

恨み言は坑道の壁に吐くしかあるまい

こだまして、地上にまで届いていないかと杞憂するが

彼らの態度がよそよそしいのはいつものことだ

言葉にされない感情なんて、何一つもわかるものか


一度崩れてしまえばいいのだ

街ひとつ飲み込んで、すべて地に還してしまえばいい

そうすれば、彼らも危機感を抱くだろう

少しは僕の言葉にも耳を傾けるだろう

自暴自棄になりたい夜にはそんな考えも脳裏をよぎる

それでも僕は、庭の片隅に作った苔畑を無くしたくないから

すんでのところで踏みとどまっている


得られた鉱石は、そこらの小石でかさましして

利用しているような場面も多くある

僕一人の自制心がどうはたらこうとも

いずれすべてが瓦解してしまうのは目に見えた結末だ

僕の振る舞いはおおむねすべて自己満足で

意味があるのかもわからない延命措置だ


ここから逃げる準備は進めておいたほうがよいかもしれない

どこか遠くへ行きたい

誰も知らぬ何もわからぬところで

ただ自然の雄大さに酔いながら過ごせるような

そんな遠くを目指すのだ

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