ショーウィンドウ
マネキンがショーウィンドウ越しに眺める街には
大小さまざまな個々が転がっている
皆微動だにせず、何かが終わるのを待っているようだ
多分に漏れず、僕も同様に振る舞う
できるだけ彼らと同じように、膝を折り曲げて
手をくの字にして、全身から力を抜いて
何事も期待していないような空虚な目を添えて
心臓の音が早まることに焦りながら、
それでも見事なまでに、
転がる個々の一員として振る舞って見せるのだ
じきに地響きがする
ショーウィンドウのガラスが震えるのが分かる
大柄な目の位置のわからない怪物が歩いて、
転がる個々を踏みつぶさないように
器用に歩き抜けていく
転がる個々は、彼に目を付けられぬように
必死に自身の体躯を小さく小さく見せる
人間本能に本質的に染みついた性質であるかのように
彼らは惨めに地面に転がっていることを恐れない
僕が恐れているのは、
彼らの持つ本性を僕が持ち合わせていないこと、
そしてそれが露呈してしまうことだ
だからこそ、彼らの姿を真似て地面に転がって見せている
家にさっさと帰りたい気持ちも自分だけの安全地帯を恋しく思う気持ちも
すべてをマンホールに空いた小さな穴に
溶かし流し込みながら、自分を律して振る舞っている
自分の客観的な姿が気になって、
ショーウィンドウに写る姿を眺めようとしたことがある
ただ、誰彼の瞳に映るのは、いつも僕でない姿で、
僕はどこにも写っていなかった
いや、目を凝らせば見えるけれど、誰も認めていないだけだ
僕でないものを見て僕を語ろうとする
マネキンの眺める平等な世界にも、写りこむことはないのだ
くもりなきまなこであればそれはより一層顕著だ
何一つ、期待することなんてできない
怪物は過ぎ去ったようだった
僕は惨めに転がった自分自身を発見した
転がる個々は日常生活に戻ろうとしていた
僕はここが僕の居場所でないように感じている
自分がやっていることの意味が、答えが何一つ思い当たらない
それでも当面は、同じことを繰り返し続けている
マネキンが妙に下卑た笑みを浮かべているように見えて不愉快だった
薄汚れた服から土ぼこりを払って、足早に帰路につく
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