椅子の置かれた平原
だだ広い平原に、たった一つの椅子が置かれている
周囲一キロを囲むように人がうごめいていて、
誰もがその椅子が空く瞬間を待ちわびている
僕もまた同じだ、皆々と同じように
寝ずの番でただ席が空く時を待ちわびている
意識を飛ばして体を休めている内に椅子が空いては
悔いても悔いきれないから、おちおち眠ることもできない
疲弊していく体と心は有意義な人生の代償だと自分に言い聞かせて
血眼になって席を凝視している
時折椅子の周りをうろついて、堅牢な牙城が崩れる気配がないか確かめる
以前椅子が空いたタイミングのデータをかき集めて、傾向と対策を練る
何一つ見えてくることなんてなくて、椅子に座るための哲学も不明なままだ
この世の心理なんて何一つ解き明かせないし、
誰かが作った公式も何一つ理解できない
椅子に座る行為はそれだけ難しく、
椅子が空くその時を見逃さず、好機をつかむことはさらに難しい
限られた居場所を皆々奪い合っているのだ
この椅子取りゲームの勝敗は、椅子に座った後の景色からしかわからない
一度も椅子に座ったことがないわが生涯を思えば、
レジャーシートなんて敷いてぬくぬくと椅子が空くのを待っている
そんな一見能天気にも見えるような人間の心持なんてまったく理解できない
椅子が空く瞬間はいまこの時かもしれないのだ
安心する暇も、ましてや座って楽をする余裕なんて、
塵ひとつ分もあってはならないのだ
ただそれが知るものと知らぬものの運命なのか
後者に属する僕は、ただ彼らを嘲笑することしかできない
きっと椅子には僕が先に座って、
彼らを見返してやろうと固く誓うが
その時はいまだ訪れず、これから先訪れる気配もないままだ
きっと彼らの方が利口なのだろう
ゆっくりと上手に生きていくことは非常に難しい
たとえば教科書であったり、あるいは眉唾の自己啓発本でもいい
この在り方に対しての正しい言及があれば
少しは心境も楽になるだろうに、何度か夢に見た程度だ
この生活は続いていく
椅子をつくる立場になるか、
または椅子に座るためのプレミアチケットを手に入れるか
いずれにせよ、ただ椅子の周りをぐるぐる歩くだけの
この生活には非常に縁遠いものだ
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