待ち合わせに適した場所

待つことは犬にもできる

その証拠に、僕の傍らでたたずむ犬は

僕よりも長くこの場にいるにもかかわらず、

微動だにしないままだ

使者が来る瞬間を今か今かと待ちわびている

その姿は、もはや心動かす彫刻作品を思わせる


少しでも雨が降ったら、僕はしびれを切らしてその場を立ち去ってしまう

言い訳を探すことだけは誰よりも得意で、

自分を甘やかすことに何よりも秀でている

部屋に戻る最中も、常に後ろ髪をひかれるような気持ちに苛まれる

しかし一度帰ってしまえば、

ただしくは何の価値も作り出せない悦楽に身を浸してしまううちに、

大切な約束のことなど何もかも忘れ去ってしまうのだ


足跡がいくらか残っていて、僕に向けた来客はあっただろうかと

ふらふらの頭をくるくるまわして周囲を見渡す

誰も僕と目を合わせようとしないし、

僕とて目が合いそうになればすぐにそらしてしまう

誰かにここにあった面影について尋ねることができれば

僕はきっと僕に望ましい結末を知ることができるだろうに

あぁ残念なことに、そうすることはできないのだ

もどかしい、もどかしい


気まぐれに、思い出したようにまた待つことを始める

ベルトコンベアーを流れる一作業のように形骸化しても

待ちわびている誰かに連絡がとれないのだから

ただひたすら待っていることしかできない

犬は気づけばいなくなっていて、

彼が待ち人に拾われていったであろうことは理解できた

身勝手に、一方的に友情や親愛、あるいは単なる同類意識を持っていたが、

薄情なことに僕には何も告げずにいなくなってしまった


待つ姿勢をいくらか変えた

考えることもなく、暇を持て余すうちに、

普段は感じないような足のしびれが強く強く

またこの場にはいられなくなって、僕は僕のねぐらに帰る

そうしている間にも、待ち合わせ場所では時間が流れている

そこで何が起きていようとも、僕にはうかがい知ることができない

もとよりその場にいない時点で、

何一つ不平不満を垂れる権利はもたないのだ

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