滅菌室

この世のすべてはおぞましく、

身勝手な期待を鼻笑うためにあり、

いかなる愛想も不愛想も、

心根をたどれば同じになる

だからこそ一部屋の濾過が重要だ

ほんの些細なひと手間でもいい、

間に一つ挟むことが重要なのだ

滅菌室を通したものでないと、

身も体も受け付けない

どれだけ形式的な手続きであろうとも、

ゆっくり眠るための安心を得るためには何よりも肝要なのだ


他人の全部が全部きもちわるい

物とか空気とか、全部きもちわるい


できうる限り遠ざけねばならない

高潔を気取るわけではあるまい

そのあたりの誤解は時間を割いてでも解いておきたい

ただ一つの汚染が命取りになるがゆえの策だ

細胞膜の一つも信用に足らないのだ

大した顔なじみでもないのに、

賄賂の一つでも受け取れば、固い固い城壁も意味をなさない

意志薄弱な自分を恥じろと罵られれば返す言葉の一つもない

それでも一つ、時間を稼ぐための手段を講じる


汚染は深刻だ

下手に受け入れてしまえば、

同調しようと思ってしまったら

かなり根深いところまで侵入を許すことになる

既に取り返しはつかないかもしれない

もはや手の打ちようもなく、首を垂れる他ないかもしれない

頭を下げて、ここから出ていくことを懇願しても

僕の話を聞いているのかもしれない

無遠慮に部屋を物色して、大切にしているものを順番に壊す

僕はすぐにでも新しい「大切なもの」を探しにいかねばならないが、

侵入者の一人を放ったままにはしておけないのだ


彼の素行の一つ一つを注視しながら、

彼のそばを離れないように、じっと追いかけてまわる

僕は僕のために費やす時間のすべてを失って

眠るための枕を選ぶこともできないだろう


滅菌室がなければ、そのような体たらく

あったとして、その効果のほどはうかがい知れぬが

ほんの少しの安息を得るために

小心者の不可思議な杞憂を紛らすために、

どれだけ馬鹿らしいと思われようとも

僕には必要な手続きだ

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