アパートの一室
夕方が近づく時分、ほんの一時だけ、
西側の窓から陽光が差してくる
何も大切なものなんてないのに
覆い隠すように立ち並ぶビル群は、
守っているようでいて、醜いものを見せないように
背を伸ばしていくことに執心している
恨み言はほどほどに
あるいは何も、考えないでいるように
わずかに差す光ですら、時折煩わしく感じてしまって
カーテンを閉じることもしばしばある
守るべきものなんてないのに
随分と重厚なカーテンを買ってしまった
遮光性は必須
断熱性もあると望ましい
過度なオプションで装飾されて
役割のほとんどを発揮できないで持て余している
凍えること自体を嫌っているわけではない
むしろ暑くて寝苦しい夜の方がよほど疎ましい
この狭い狭い六畳一間が自分の定義域ならば
多少涼しくあった方が、それらしいというものだ
機能を重視したわけではないのだ
ただ、薄ぺらな布切れに安心できなかっただけだ
窓を開ければ温い風がここぞとばかりに入り込む
窓を閉めていても、光も音も自由きままだ
少しでも定義を明確に持ち続けるために、
ただ、多少なりとも厚い布切れで安心したかっただけだ
部屋の中にはうずもれた本、
どこから拾ってきたのかもわからないような屑
衝動買いして、すぐに邪魔くさくなって
回収に申し込もうにも失敗した、
場所だけ占有する粗大ごみの数々
見方によってはうれしくも悲しくもあって、
実際、日を移ろうにつれて価値は上下する
閉め切ってしまえば、あとは僕の問題だ
この場所が最後の砦なのだ
安心できる場所、落ち着いて横になれる場所もなく、
突き刺すような視線に悩まされ続けている
誰かの持ち込んだ不純物も、
触れて馴染んでいくうちに、どうでもよくなってくる
時折、紙の端のような鋭さをもって指先を撫でるが、
それもそれとしてかわいく思えるものだ
カーテンを開けて、日に身をさらす
本が日焼けすることを気に病んで、また閉める
定義された、し続けてきたこの空間は、
等号でつなぐに相応しくなくてはならない
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