ホテルマン

一度目、ホテルマンに応対をお願いした時、

彼はいかにも重要な客人をもてなすかのように振る舞った

僕はその礼儀に対して最大限の敬意を返し、

何事も無き穏便な手続きを粛々と済ませた


野暮用が生じて二度目に話をした時も同様だった

彼にとっては僕は客人であって、

彼の従ずるサービスを継続していくために必要な要素だからだ


三度目から様子が変わった

彼は明らかに同様の熱量を失っていた

半ば投げやりに、最低限必要な手続きを行うだけ

それは僕が彼らに求めるべきものとして

あくまで必要十分なものだ

僕がそれに対して何ら述べるべきこともないし

ましてや文句の一つでも言おうものなら、

この世あらざるところに運ばれて、

細胞の一つ一つから作り変える必要に迫られるだろう


ただ何度か繰り返すうちに、僕は僕が他者に比して

幾分ぞんざいな扱いを受けていることに気づいた

順番待ちの列が守られることは少なくなり、

必要十分を満たすことも難しくなった

良き客人であるために僕は彼に対して

いつも通りの愛想笑いを用意したが、それも

無為に空しく見えることが多くなった


+α理論に基づくと、僕は僕の振る舞いをこそ変えねばならない

忙しいという断りの文句によって、

僕はまた順番待ちの最後尾に並びなおす

僕はその間に携帯をポチポチといじって

何の意味もなさない情報を得ている

遠くから談笑するような声が聞こえてきて

はじめてイヤホンを忘れたことにきづいた


時間の約束をして、僕はホテルの部屋で待っていたが

結局約束が果たされることはなかった

こっそりと帳簿を確認したが、

そもそもこの約束事は記録にも残されていなかった


適当な相槌には気づいていたのに、未だに

現実を受け止められないでいる、

そういう言葉を信じることの方が間違っていた

いつの間にか列の前に陣取っていた某の姿を、

一挙手一投足を余すことなく観察するのだ

頼りない風景と言い訳を考えるたびに乾いていく口の中

水でもカフェインでも拭えない渇きを終わらせるために

何よりも優先して必要な手続きだ

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